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Vol.10 (1989/3[109])

<国内情報>
広島市における異型肺炎の流行について


 Mycoplasma pneumoniae(以下M.pn)による異型肺炎の流行はかねてより,4年に1度の周期性が知られている。わが国ではちょうどオリンピック開催年と一致することから,1988年の流行が昨年当初より予想されていた。1982年から1988年までの広島市感染症サーベイランス事業による異型肺炎患者数,検体数および分離陽性数を表に示した。前回の流行は1984年にみられ,患者発生は,849人に及ぶ大規模な流行であった。その後,患者数は徐々に減少し,1986年と1987年にはそれぞれ年間200人弱の患者数であった。しかし,4年目にあたる1988年には再び増加し482人の患者数となった。広島市における今回(1987年8月から1988年12月)の流行における月別患者報告数および菌分離状況を図に示した。患者発生は1987年11月頃より増加傾向を示し,途中一時期中だるみがみられたが,1988年10月頃より再び急増しており。今後の動向が注目されている。季節的には,前回が7月に194人の患者発生のピークを示す夏場の流行であったが,今回は晩秋の11月に79人の患者ピークがみられた。

流行時における患者からのM.pn分離率をみると,1984年は50.8%に達していたが,1988年は38.9%の分離率にとどまった。一方,1985〜1987年流行閑散期にはいずれも8.7%〜9.5%の低い分離率であった。好発年齢層は5〜9歳が272人(45.6%)と最も多く,次いで1〜4歳が209人(35.1%)となり,この両者で全体の80%を占めた。被検者年齢別M.pn分離率は,10〜14歳が71.4%(7検体中5検体)で最も多く,次いで5〜9歳が35.0%(20検体中7検体),15歳以上が33.3%(3検体中1検体),1〜4歳が18.8%(16検体中3検体)であった。検査材料別分離状況では,咽頭ぬぐい液からは47検体中15検体,喀痰からは2検体中1検体からM.pnが分離されたが,前回流行時に分離された胸水(1検体)からは今回分離されなかった。

 臨床所見が明らかであった被検者45人の症状は発熱,上気道炎,下気道炎,筋肉痛,発疹および肺炎であった。このうち最も多かったのはM.pnの分離有無にかかわらず,発熱・下気道炎の併発が27人(60.0%),次いで発熱と下気道炎の単発がそれぞれ8人(17.8%)と4人(8.9%)であった。

以上,4年ぶりの今回の流行は,1984年の大規模な流行と比べて,患者数も約半数と少なく,さらに前回みられた家族内発生例や小学校集団発生例も確認されておらず,比較的小規模な流行であった。これらが菌側の病原性の差に起因するものか,あるいは宿主側の感受性の差に起因するのかは,今後注目されるところである。



広島市衛生研究所 山岡 弘二,岸本 亜弓,伊藤 文明,萱島 隆之,岡 新,荻野 武雄


表 異型肺炎患者報告数及びM.pn分離状況 広島市感染症サーベイランス事業(1982年〜1988年)
図. 月別異型肺炎患者報告数およびM.pn分離状況(広島市感染症サーベイランス事業 1987年8月〜1988年12月)





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