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Vol.9 (1988/12[106])

<国内情報>
感染症サーベイランス解析評価について


(感染症週報:昭和63年第27週〜第39週)

(感染症月報:昭和63年7月〜9月)

昭和63年11月8日



第3四半期が終了した時点での小委員会の解析評価を報告する。

小児科・内科定点

○概況:第3四半期での注目される動きは,異型肺炎と流行性耳下腺炎である。異型肺炎は流行年に当たり,増加傾向がみられていたが,9月末第39週に定点当たり0.5人を超え,本格的な流行期に入ったようである。流行性耳下腺炎は,前回流行から3年目を迎え,5月頃から増え始め,8月初め第31週に定点当たり1.41人のピークを作ったが,その後やや低下し,9月末から再び増加の傾向を示している。これからさらに流行が続くと考えられる。

今期は季節的に春の感染症が低下し,夏の感染症がピークを作る時期である。本年度前半の流行の主力であった風疹が低下し,麻疹,水痘も減少したのに対して,ヘルパンギーナ,手足口病が増加した。手足口病の発生は多かったが,ヘルパンギーナは例年よりも少なかった。溶連菌感染症は例年9月頃から年末に向けて増加に転ずるが,本年も第35週に最低となった後,徐々に上昇しつつある。

○主要な動き

1.異型肺炎:昨年末から増加し始めたが,本年3月から4月にかけて,やや中だるみの時期があり,5月第20週以降,再び増加して定点当たり0.3人台となった。今期,8月に入って0.4人台,9月末第39週から0.5人台となり,ようやく流行の最盛期に入ってきたようである。前回の流行(1984年)は,夏期の流行で,第20週に定点当たり0.5人を超えてから年末まで流行が続いた。第30週から36週までは0.7人以上で,第33週のピークには0.88人であった。本年第1週から第39週までの定点当たり累積報告数は11.93人で,昨年同期の4.78人に比べて約2.5倍の発生である。ブロック別に定点当たり累積報告数をみると,東海・北陸20.70人がいちばん多く,次いで近畿15.01人,九州・沖縄・13.10人,中国・四国12.85人と,西日本に多く,東日本では東北9.72人,関東甲信越7.10人,北海道3.35人と比較的少なかった。県別で,定点当たり累積報告数20人以上と,特に発生の多かったのは,岩手20.54人,岐阜28.34人,愛知28.58人,名古屋市30.26人,三重20.66人,大阪府21.65人,徳島20.13人,大分27.44人,福岡市20.54人である。

2.流行性耳下腺炎:前回の1985年の流行では,7月に定点当たり3.3人/週のピークを作り,9月に一時的な低下をみた後,年末に向けて再増加し,1986年夏まで流行が続いた。その後は少ない発生が続いていたが,本年に入って5月頃から増え始め,6月第22週以降は定点当たり1.0人を超え,8月初め第31週に定点当たり1.41人のピークを作った。以後,やや低下し0.9人台となっていたが,第39週に再び1.0人を超えた。流行性耳下腺炎は,3,4年の周期で大きな波を作る発生なので,これからさらに増加状況が続くと予想される。第3四半期までの定点当たり累積報告数は,35.51人(昨年年間25.83人)で,ブロック別には東海・北陸49.08人がいちばん多く,次いで近畿40.44人,関東甲信越36.71人が全国平均よりも多い地域である。この他は,九州・沖縄ブロック33.23人,東北29.12人,北海道26.20人で,中国・四国18.63人がいちばん少ない。県別の定点当たり累積報告数では,福島が55.21人,茨城61.14人,群馬107.16人,埼玉51.59人,岐阜54.11人,静岡80.96人,愛知58.16人,名古屋市53.66人が50人以上である。

3.手足口病,ヘルパンギーナ,発疹症:

手足口病は,昨年は秋になって九州から中国・四国ブロックを中心に多発し,第45週になってピーク(定点当たり1.99人)を迎えるという状況であった。その名残りは今年になっても残り,例年よりは幾分多めの発生が続いていたが,3月末第14週には定点当たり0.13人と最低となった。5月に入って中国・四国ブロック,特に高知,鳥取,山口県での流行が激しく始まり,約2,3週遅れて近畿,東海・北陸ブロックの増加が始まり,ほぼ同時に東北,北海道でも急増した。流行のピークは中国・四国ブロックでは第25週,東海・北陸,近畿は第27週,関東以北は第28週となった。全国平均では第27週がピークで,定点当たり4.55人と,1985年のピーク5.74人に次ぐ大きな流行となった。ブロック別の第3四半期末までの定点当たり累積報告数は,北海道94.01人,中国・四国86.23人,東北81.10人,東海・北陸71.40人,近畿65.40人の順であった。これに対して,昨年流行の激しかった九州・沖縄ブロックでは26.81人と少なく,全国平均53.46人の約2分の1であった。また,関東甲信越は21.83人とめだって少なかった。本年の流行は,中国・四国を中心に西日本で始まったが,東北,北海道の流行が続き,その程度が高かったことを示している。県別では,定点当たり累積報告数100人以上は,青森が115.50人,岩手127.36人,福井117.84人,三重141.45人,鳥取が151.93人,島根112.67人,山口124.75人,高知県152.85人であった。一方,山梨5.50人,佐賀5.78人,沖縄2.81人はほとんど流行をみなかった。本年の手足口病からの分離ウイルスはコクサッキーA16型がほとんどである。

ヘルパンギーナは例年のごとく,4月末から動き始め,5,6月に急増し,7月第29週にピークとなり,その後低下しつつある。ピーク時の発生は定点当たり3.09人で,これまでの最低であった1985年の3.87人よりも下回った。患者からの分離ウイルスは,これまでのところコクサッキーA10,A2,A5型が多いようである。

本年の夏期には,サーベイランス対象にはなっていないが,エコー18型ウイルスによる発疹症の流行をみた。エンテロウイルスの流行する時期に,顔面,四肢に丘疹性紅斑をみる熱性疾患の流行があった。発熱の程度は軽いようである。これらの患者からエコー18型ウイルスが多数分離されている。サーベイランス対象疾病に不明発疹症を加えている東京都では,手足口病,ヘルパンギーナの流行時期に一致して不明発疹症の山がみられている。

4.風疹:本年の風疹流行は,第22週の定点当たり3.78人のピークから急速に下がり,第39週には0.08人と,流行は終息した。この時点までの累積報告数は定点当たり64.80人で,昨年同期169.55人の約3分の1であった。ブロック別の定点当たり累積報告数は,九州・沖縄134.17人がいちばん多く,次いで東海・北陸107.04人,中国・四国92.27人,東北73.67人で,北海道60.48人,近畿43.68人および関東甲信越21.20人は全国平均以下であった。昨年の流行が東日本に強かったのに比べて,本年は西日本優位であった。県別定点当たり累積報告数200人以上と流行の強かったのは,佐賀203.78人,大分202.11人,宮崎219.06人で,100人以上は,宮城122.56人,山形152.59人,富山194.67人,福井119.00人,長野124.21人,岐阜150.63人,三重121.64人,岡山150.89人,山口150.29人,香川133.22人,長崎167.15人,鹿児島102.67人,福岡市169.77人であった。これに対して,群馬4.56人,埼玉6.40人,千葉7.62人,東京都7.15人,神奈川県9.58人,川崎市6.87人,京都市4.41人,大阪市7.70人,徳島4.07人は10人以下で特に少なかった。

5.麻疹:本年の麻疹は,第19週の定点当たり0.66人をピークとして,徐々に下がり,第38週には0.08人と流行は終息している。麻疹は1984年の全国流行の後,1985年には最低の発生であったが,86年,87年とやや増加した。本年は昨年より少し下回る発生カーブである。本年第3四半期までの定点当たり累積報告数は14.51人で,昨年同期の20.35人よりも少ない。ブロック別には東北ブロックが特に多く,49.24人を示した他は,関東甲信越16.54人,九州・沖縄14.97人,北海道14.62人,東海・北陸11.54人の順で,近畿3.60人,中国・四国6.45人はほとんど流行がなかった。昨年は中国・四国および九州・沖縄ブロックの流行が強く,北海道も多かったのに比べると,今年は東日本,東北,関東甲信越,東海・北陸優位の発生であった。県別では,定点当たり累積報告数20人以上は東北の6県すべて,青森37.10人,岩手46.04人,宮城51.13人,秋田80.96人,福島37.70人,山形26.33人,そして関東地方では茨城21.63人,栃木33.15人,埼玉34.51人,千葉21.11人で,その他は長野23.54人,静岡28.57人と東日本に集中しており,それ以外は大分30.33人だけである。

6.その他の疾患:百日咳はこの4年間ほぼ同様の発生状況であるが,本年のカーブは昨年,一昨年より下回っている。第39週までの定点当たり累積報告数は2.30人で,昨年同期の4.15人よりかなり少ない発生である。なお,罹患年齢は0歳,1歳で54%を占めている。

水痘のカーブは例年より少なかった。第39週までの定点当たり累積報告数は73.13人で,昨年同期は92.88人であった。第36週以後0.5人台と,最低の発生になっているが,例年通り,第40週からは上昇に転じよう。

溶連菌感染症もほぼ例年通りの動きである。第35週に定点当たり0.18人と最低となった後,徐々に上昇に転じている。

眼科定点

第3四半期7月から9月までの3ヵ月間は,例年流行性角結膜炎(EKC)が多発する期間である。本年は眼科定点の全国平均一定点当たりの患者発生数は例年最高値を示す34週目で1.8と,1984年の35週目6.8のような多発は認められなかった。しかし,地域的には多発が本年もこの期間中認められた。すなわち,第2四半期にすでに多発し,その後の流行が予測された島根,福岡,熊本では1眼科定点から各週5.0以上のEKC患者が連続して報告された。特に島根では第27週から29週まで13.89のEKCが,福岡第29週から34週では10.3のEKC,熊本はこの期間ほとんど全週5.0以上であった。このように多発が第3四半期にすでに予想されたにもかかわらず,これらの地域での流行が継続した。その病原についても情報が得られなかったことは,感染症サーベイランス事業として今後反省すべきことであろう。前記地域以外には沖縄と佐賀においてEKCの多発が,静岡では急性出血性結膜炎(AHC)が第39週9.8と第40週10.4,秋田では咽頭結膜熱(PCF)が第34週から40週にかけて15.4と多発が報告されている。すなわち,第4四半期に例年流行する傾向が強いAHCが静岡地方に発生しており,今後の病因情報が必要となっている。秋田地方のPCFの発生とともにEKCの流行もあり,これらの疫学情報からこのPCFはアデノウイルス4型の可能性が強く,検体の採取が望まれる。

病院定点

1.MCLS(川崎病):MCLS(川崎病)は特別の動きはない。本年1月から9月までの報告数は1,225例,病院定点当たり2.39人で,昨年同期の1,301例,定点当たり2.50人と変わりはない。月別の変動も少ない。

2.感染性髄膜炎:細菌性髄膜炎の本年1〜9月の発生は256例,病院定点当たり0.50人で,昨年同期の246例,定点当たり0.47人と変わりがない。無菌性髄膜炎は本年1〜9月1,824例,病院定点当たり3.56人で,昨年同期1,641例,定点当たり3.21人よりはやや多い発生であった。月別発生状況も本年9月のピークに病院定点当たり0.92人で,昨年のピークの8月0.71人を上回っている。昨年は,無菌性髄膜炎の発生はこれまでの最低年であり,それよりも今年はやや多い程度で,流行の規模としてはかなり少ない年であったといえよう。

3.脳・脊髄炎:本年1〜9月の発生は238例,病院定点当たり0.46人で,昨年同期の278例,0.54人に比べるとやや少ない。これは,脳炎の発生数の違いによる。脳炎の本年の発生数は170例,定点当たり0.33人で,昨年同期は215例,0.42人であった。月別発生数は,昨年は風疹大流行の影響を受けて風疹脳炎例が増え,4月に44人,定点当たり0.09人,5月39人,0.08人と,他の月に比べて約2倍の発生であったが,本年はこのような増加はみられていない。

ウイルス性肝炎関係病院定点

1.A型肝炎:1月から9月の間に3月をピークとする発生の増加がみられた。月別発生パターンは1987年と同様であるが,発生数は約1.84倍の増加であった(図1)。男/女比は0.968と昨年の1.083に比べるとやや女性が多かった。年齢別発生率は昨年とほぼ同様であったが,30代にやや多い傾向がみられた。

2.B型肝炎:昨年に比べ5月を除き発生数の減少がみられ。1月から9月までの累積発生数は昨年の76.06%である(図2)。男/女比は1.662と男性が多いが,昨年(1.718)とほぼ同じであった。また,年齢別分布も昨年と同様に20歳〜49歳まで約58%を占めていた。

3.その他の肝炎:月別発生数は昨年と大差がなく,また,累積発生数も昨年の97.1%であった(図3)。男/女比も1.073で昨年(1.133)とほぼ同様である。年齢別の発生頻度も昨年と同様であるが,9歳以下で21%を占めている点が注目される。



結核・感染症サーベイランス情報解析小委員会


全国一定点医療機関当たり患者発生数の推移
風疹,麻疹ブロック別流行状況 1987,1988年第3四半期末までの定点当たり累積報告数の比較
一定点医療機関当たり報告数





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