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Vol.9 (1988/10[104])

<特集>
アデノウイルス感染症


1983年までのアデノウイルス検出状況については病原微生物検出情報月報第54号(1984年8月)に記載された。今回は1984年以降の検出状況の報告である。

1984年1月〜1988年8月(4年8ヵ月)中にヒトから検出されたアデノウイルスとして,1988年9月までに報告された検出数は合計6,452で,うち5,900が型別された。3型が2,283と群を抜いて多い(表1)。特に1987年の検出数は934と本システム開始以来の最高で,過去最も多かった84年を上回った。1984年には咽頭結膜熱と流行性角結膜炎の両者が流行し,4型の検出もまた過去最高であったのに対し,1987年は4型の分離報告は今までの最低数であった。厚生省感染症サーベイランス事業による患者発生状況によれば,1987年は咽頭結膜熱の発生報告は1985および86年を上回ったが,流行性角結膜炎はきわめて少なかった(表2)。1988年は9月まで両者とも低調である。

臨床診断名として咽頭結膜熱が報告されたアデノウイルス分離例825についての分離株の型別は3型が620(72%)と主流を占め,ついで4型11%,これ以外では11,19,37型がそれぞれ1〜2%に検出されている。一方,流行性角結膜炎は,922中4型:304(33%)および3型:216(23%)が報告が多く,従来から流行性角結膜炎の主要原因とされている8型,19型および37型が占める割合はそれぞれ15%,11%および12%であった。

アデノは毎年夏期に検出が増加する。

アデノが検出された検体の種類(表3)は鼻咽喉材料が最も多く,眼ぬぐい液,便がこれに次ぐ。型によって分離材料に差がみられ,1,2,5,6型は鼻咽喉と便から,3型は鼻咽喉,眼ぬぐい液と便から,4型は眼ぬぐい液と鼻咽喉から,8,19,37型は眼ぬぐい液から,また11型は尿から主に検出される。41型(エンテリックアデノ)は便からの検出報告である。

各検出例について便と鼻咽喉と眼ぬぐい液のうち同一型のアデノが検出された材料の組合せを表4に示した。2種類の材料からの分離例は,便と鼻咽喉の組み合わせが最も多く,256例,鼻咽喉と眼ぬぐい液が57例,便と眼ぬぐい液は1例,これら3種類の材料から同時に分離された例が5例(3型2,5型11,11型2)であった。

検出方法は便以外の検体ではすべて細胞培養によるが,便では1,172中884が細胞培養,電顕が269,細胞培養と電顕が2,酵素抗体法14,その他(ラテックス凝集反応)3であった。現在のところ細胞培養のみが型別可能で,95.7%(5,900/6,166)について型別が報告されている。

アデノ検出例の年齢もまた型によって異なる。1,2,5,6型は1歳をピークとして,3,4型は4歳をピークとして9歳以下が多い。3,4,8,11,19型は低年齢層のピークに加え,20〜30代にも低いピークをもった2峰性の分布を示し,37型は20〜30代が多い(表5)。アデノ検出例の0歳児678の月齢別の割合は月齢とともに増加する傾向がみられ,0〜3ヵ月では11%と少なく,4〜7ヵ月が34%,8〜11ヵ月が56%であった。

アデノウイルス検出例について報告される臨床症状はきわめて多彩である(表6)。不詳を除く5,483例中多くみられた症状は発熱56%,上気道炎51%,角・結膜炎35%,胃腸炎19%,下気道炎・肺炎5%であった。アデノウイルスはエンデミックに広く浸淫しているので,不顕性感染または,たまたま居合わせて検出される場合がある。したがって,分離例にみられた臨床症状について,検出されたアデノウイルスの感染が直接の原因であることは必ずしも特定できない場合があることに留意が必要である。

検体採取の理由別にみると現在報告されているアデノウイルス分離例はサーベイランス事業定点からの検体がほぼ半数(47%),各地域で実施している監視・特定研究などによる分離成績は36%である。

検査実施機関別の報告数の割合は地研が82%を占め,民間検査所が16%,国立病院・大学が2%である。アデノは全国的に検出が報告され,特に3型はこの期間中50県市から分離が報告された。



表1.年次別アデノウイルス検出状況 1984〜1988年
表2.年次別咽頭結膜熱と流行性結膜炎患者発生状況 1982〜1987年(厚生省感染症サーベイランス情報)
表3.検体の種類別アデノウイルス検出状況 1984年1月〜1988年8月
表4.検体の組み合わせ別アデノウイルス検出状況 1984年1月〜1988年8月
表5.アデノウイルス検出例の年齢分布 1984年1月〜1988年8月
表6.アデノウイルス検出例の臨床症状 1984年1月〜1988年8月





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