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Vol.9 (1988/9[103])

<国内情報>
感染症サーベイランス解析評価について


(感染症週報:昭和63年第14週〜第26週 感染症月報:昭和63年4月〜6月)

       昭和63年8月10日

       結核・感染症サーベイランス

       情報解析小委員会



 第2四半期が終了した時点での小委員会の解析評価を報告する。

 小児科・内科定点

 1.概況:最大の動きは風しんで,前期から引き続き上昇を続け,第22週に定点当たり3.78人のピークとなり,下降に向かった。昨年のピークは第22週10.71人で,本年のピークの高さは昨年の約3分の1であった。ブロック別の発生状況からみると,昨年が東日本中心であったのに比べて,本年は九州・沖縄が最も多く,次いで東海・北陸,中国・四国と,西日本優位であった。

 麻しんも今期第19週にピークを示したが,定点当たり0.66人で,昨年第12週のピーク0.88人に比べて約4分の3の高さであり,26週までの累計報告数も昨年の約7割であった。ブロック別には,東北,関東甲信越の発生が多く,特に,東北ブロックの発生が多かった。

 流行性耳下腺炎は昨年から本年はじめにかけて最低の発生状態が続いていたが,5月頃から徐々に増加し,第22週以降定点当たり1人を越えるようになった。これから第3四半期を通じての発生に注意する必要がある。

 手足口病は昨年は異常な動きで秋にピークを作り,本年に入ってもその影響が残っていたが,3月頃に例年なみの非流行時のレベルに戻った。本年のシーズンに入って,中国・四国ブロックで急激な増加が始まり,近畿,東海・北陸ブロックに拡がり,次いで東北,北海道の急増がめだった。これに対して,昨年の流行が激しかった九州・沖縄ブロックの発生は最低であった。関東甲信越も発生は少ない。

 ヘルパンギーナも手足口病と同時期に流行するが,本年は梅雨が長じているせいか,立ち上がりが遅れているようである。

 無菌性髄膜炎の発生は,病院定点からの月報でみると,これまでの最低であった昨年に比べると6月までの発生は幾分多いようであるが,例年に比べると少ない。

 異型肺炎は4年ごとの流行年に当たるということから警戒されている。昨年末からやっと上昇したが,3月〜4月にかけて中だるみの時期があり,5月以降に再び増加傾向がみられているが,前回流行の昭和59年の状況に比べると半分以下である。今後の動きに注目したい。

 その他の疾病についてみると,水痘は毎年類似のパターンを示すが,本年は発生は幾分少なく,特に第14週から18週にかけての発生が少なかった。百日せきは最近2〜3年はほぼ横ばいの状況である。本年もその状態が続いているが,発生カーブからみるとやや少ないようである。溶連菌感染症は例年なみの発生である。感染性胃腸炎は本年に入って第5週にピークを作り,以後急速に低下したが,第20週から22週まで,定点当たり3人以上と,例年にはみられない山を作った。乳児嘔吐下痢症では,このような山は同時期にみられていない。伝染性紅斑は昨年の流行後は低下しているが,本年の発生状況は,非流行期に比べると幾分多い。これは一部の県で発生が多いことを反映したものである。第26週までの累計が10人以上の県は,青森,岩手,秋田,山形,静岡,熊本,宮崎,沖縄である。突発性発疹は例年通りの動きである。MCLSは小児科内科定点,病院定点とも,特に発生が増加した様子はみられていない。インフルエンザは第10週定点当たり29.75人のピークに達した後,急速に低下し,第18週以後は1.0人以下になった。

 2.風しん:第26週までの定点当たり累積報告数は56.46人で,昨年同期の約3分の1の発生である。ブロック別にみると,いずれのブロックも昨年を下回っているが,本年は西日本優位の流行で,九州・沖縄ブロックが124.06人といちばん多く,次いで東海・北陸94.78人,中国・四国84.10人,東北59.11人,近畿37.80人,北海道37.05人の順で, 関東甲信越が17.76人と最も少なかった。

 流行のピーク時期は九州・沖縄が第19週で定点当たり9.04人,21週に中国・四国4.69人,22週に近畿2.85人,24週に東海・北陸6.89人,東北4.63人,関東甲信越1.28人となったが,北海道は第27週4.29人まで増加を続けた。

 県別にみると,累積報告数150人以上と流行の激しかった県は,富山,佐賀,長崎,大分,宮崎,福岡市と九州に集中し,100人以上の県は,宮城,山形,福井,長野,岐阜,三重,岡山,山口,香川で,東北,東海・北陸,中国・四国の一部の県に多く,ブロック内でも地域差がかなりあることが認められる。これに対して,群馬,埼玉,千葉,東京,神奈川と東京周辺地域では3ないし7人と著しく発生が少なかった。その他10人以下の少ない地域は石川,徳島,川崎市,京都市および大阪市である。

 3.麻しん:昭和59年の全国流行の後,60年に最低の発生であったが,61年,62年と増加傾向がみられている。本年の発生カーブは62年を幾分下回る動きをみせており,本年第26週までの定点当たり累積報告数12.07人は,昨年同期17.03人の約70%に当たる。

 昨年の流行が北海道,中国・四国,九州・沖縄で強かったのに対して,本年は東北と関東甲信越が多かった。関東甲信越は第16週0.87人のピークの後低下したが,東北では増加を続け,第20週定点当たり2.43人のピークを作って徐々に低下しつつある。第26週までの定点当たり累積報告数は,東北ブロック39.85人,関東甲信越15.27人,北海道12.0人,九州・沖縄11.36人の順である。東北各県はいずれも,第26週までの定点当たり累積報告数は20人を越えており,宮城と秋田は60人以上となっている。その他の地方での20人以上の県は栃木,埼玉,千葉,長野,大分だけである。

 4.手足口病:昨年の第45週にピークという異常な動きの影響が本年をはじめにも持ち越されていたが,第14週になって,全国平均でも定点当たり0.13人と下がったが,シーズンに向けての再増加が始まった。流行は中国・四国ブロック,特に高知,鳥取,山口県で激しく増加し,第25週にピーク(定点当たり6.96人)となった。続いて近畿,東海・北陸での増加がみられたが,同時に東北,北海道でも急増した。近畿,東海・北陸ブロックのピークは第27週に,関東以北では第28週になった。

 各ブロックの定点当たり累積報告数は,中国・四国が53.08人,次いで近畿27.80人,東海・北陸25.35人,東北22.54人,北海道20.17人で,九州・沖縄は14.71人,関東甲信越は6.19人と少ない。ブロック内でも県別に差異があり,鳥取,高知は定点当たり累積報告数100人を超え,岩手,三重,島根,山口は50人を超えている。

 眼科定点:第2四半期の4月から6月までの3ヵ月における眼感染症のうち,咽頭結膜熱,急性出血性結膜炎の発生については特記すべきことはみられなかった。

 流行性角結膜炎は和歌山,鳥取,熊本,福岡において1定点における平均患者報告数が週に5.0以上みられた。1週間に5人以上の患者発生が1定点から継続的に報告されるときは,多発に連なることが多いので注意が必要である。なお,鳥取においては県西部の保育園における発生から家族へと流行が拡がったという連絡があった。サーベイランス情報における1定点から平均5人以上が報告された特定の地域におけて,各定点の報告を検討してその拡がりの大きさを知ることが,流行の前兆をを把握するために今後注目していくべきと考えられる。流行性角結膜炎の多発は30週前後に例年集中しており,上記地域における患者発生などを含めて今後注意しておくことが必要であろう。

 検査定点を特定せずに1定点における患者発生が5.0を越えた定点においては,結膜材料の採取によるウイルス培養定点ができる体制を今後徹底させる必要があろう。

 ウイルス肝炎関係病院定点

 1.A型肝炎:1月から6月の間に3月をピークとする発生の増加がみられ,そのパターンは昭和62年とほぼ同様であるが,発生数は約1.8倍の増加であった。性別では男/女比が昨年1.083であったのに対して0.931と女性が多く,また,年齢別では昨年に比べて30代の増加が著明であった。地域ブロック別の定点当たりの累積報告数は表1に示すとおりで,本年度の発生数の増加は主として関東より中国まで,特に東海・北陸,近畿の間の増加によると考えられた(なお,SRL等のIgM−HA抗体の測定機関でも本年度は昨年度に比べてA型肝炎の発生が多いことが認められている)。

 2.B型肝炎:1月から4月にかけて昨年に比べて発生数の低下が見られるが著明なものではなく,6月までの累積発生報告数は昨年の84%であった。男/女比は昨年の1.718に比べて1.685と大差がなく,また,年齢別でも昨年と同様に20歳〜49歳までで約55%を占めていた。地域ブロック別の累積報告数は昨年と大差がない。

 3.その他の肝炎:月別発生は昨年とほぼ同様であり,6月までの累積発生報告数も昨年の98%であった。男/女比も1.127で昨年の1.133とほぼ同じで,年齢別の発生頻度も昨年と同様,9歳以下が21%を占めている点が注目される。

 性行為感染症

 昭和63年4月から6月までの全国一定点医療機関当たりの患者発生数を疾患別に前年のグラフ上にプロットすると図1の如くなる。淋病様疾患と陰部ヘルペスは昨年の同時期と大体同様である。陰部クラミジア症はやや増加の傾向がみられている。尖圭コンジロームとトリコモナス症は,昨年の暮れに減少したままの状態が今年の1〜3月に続き,さらに4〜6月にもその傾向がみられている。

 都道府県別にみると,東京,大阪,福岡,札幌などに報告例が多いのは今まで変わっていない。ただ5疾患の中の一つだけとびぬけて多い県が2,3みられるが,これはその疾患がその県で多いというより,定点の選び方がむしろ関係しているのであろう。

 病原体分離状況をみると,陰部ヘルペスから分離されているものが,T型50株(39.3%),2型77株(60.6%)となっているのは興味深い。



表1.地域ブロック別の定点当たり累積報告数(A型肝炎)
図1.一定点医療機関当たり報告数





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