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Vol.9 (1988/7[101])

<国内情報>
突発性発疹の病原体はヘルペス科のウイルス


 突発性発疹(Exanthem subitum)は,幼児で高熱が続き,解熱と共に発疹が出現するのが特徴である。一般には症状は軽いが,熱性痙攣がみられることもある。30数年前から,患者血清を健康人に接種することにより感染が成立することが知られており,原因はウイルスであろうと推察され,多くの人々により,あらゆる細胞を用いて分離が試みられてきたが不成功に終っていた。発疹性のウイルス性疾患として唯一病原体が不明であった。伝染性紅斑については数年前のparvoウイルスであることがわかった。山西ら(1988)は最近突発性発疹患者から,ヘルペスウイルス(既知のhuman herpes virus 6:HHV-6,ヒトヘルペスウイルス6に酷似)の分離に成功し,かつ病気の進展に応じ,このウイルスに対する抗体価が特異的に上昇するのを確認した。

 有熱期の幼児(生後6ヵ月前後)の末梢血から単核球を分け,RPMI‐培地にIL‐2,PHA,hydrocortisoneを加えて培養した。7〜9日後にリンパ球をアセトン固定し,蛍光抗体捕体法で染色した。2〜3日の高熱後,解熱に伴い発疹の出たのを突発性発疹例とした。既に米国防疫センターのLopez博士によりAIDS患者より分離されているHHV‐6を陽性対照とした。

 急性有熱期末梢血リンパ球は数日で風船状に腫大し,回復期患者血清で抗原が強く検出された。ウイルスは,発疹出現前の有熱患者から全例分離できたが,発疹の出現しない児からは分離はできなかった。いずれの分離成功例(突発性発疹患者)でも,発疹前は抗体価は低く(<1:10),14〜18日後の回復期には1:20〜1:320に上昇がみられた。分離ウイルス抗原と,対照のHHV‐6に対する抗体価は,今回の使用血清の範囲では完全に一致がみられ,病原的にはこの両者は同一であろうと推定される。電顕的には,感染リンパ球(患者からの直接培養リンパ球)の核内には90〜110oの種々の形のコアを入れたヌクレオカプシドがみられ,細胞質あるいは細胞外には成熟粒子(180〜200nm)が検出された。この形態はヘルペス群ウイルスに特徴的であった。

 突発性発疹は,ふつうは2歳以下にみられ,約30%の子供で顕性となる。発疹が出なくても大部分の子供が感染していると思われる。ウイルスが突発性発疹患者から分離され,抗体は発疹後2週して確実に上昇することからHHV‐6に酷似する(あるいは同一の)ヘルペスウイルスが病原体であろう。この山西らの論文の後,突発性発疹患者血清での疫学調査が行われ(日本で),ほぼ病原性についてはまちがいないと思われる。感染経路についてはまだよくわからないが,出生直後にはある程度高い抗体を保有しているが,5〜6ヵ月後には低下し,それを境に再び上昇するところから,周産期に感染し,持続潜伏感染しており,母親からの移行抗体が低下するところで一時的に活性化し,抗体が上昇するのかもしれない。この点の解明は今後の最も重要な課題である。さらにこのウイルスは,突発性発疹のみならず,ごく最近,他の疾患の病原体である可能性も出てきている。

HHV‐6とは,ヘルペス科の中でヒトを宿主とするウイルスとしては,単純ヘルペス1,2,水痘帯状疱疹,サイトメガロ,EBの5つに次ぐ6番目の意味である。SalahuddinらはAIDS患者のB細胞(?)からこのウイルスを分離するのにはじめて成功した(1986年)。続いてアフリカのAIDS患者からの分離が成功した。Lopez(1988年)はAIDS患者と,正常人血液からの分離に成功し,分子生物学的に上記の分離ウイルスが同一のものであることを証明した。ごく最近,パスツール研のグループもHTLV‐1とHIV‐2感染のある女性からの分離に成功している。これら一連のHHV‐6の研究にもかかわらず,病原性については全く不明であった。



国立予防衛生研究所病理部 倉田 毅


参考文献





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