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Vol.9 (1988/5[099])

<国内情報>
兵庫県におけるSRVによる食中毒事例


 昭和63年1月に兵庫県西宮保健所管内で発生した食中毒患者からSRVが検出された。

 有症者は同月28日19時から30日にかけて発生し、発症者は同月27日19時から開催された送別会の参加者に限定されていた。16名の参加者中、食中毒症状を呈したのは10名であり、他の6名は無症状であった。16名は平均年齢28.3(21〜57)歳の女性、有症者は平均30.0(22〜57)歳であった。16名の症状と有症率を表1に示した。初発症状は吐き気7名、腹痛2名、下痢1名であった。平均嘔吐回数は2.3回、平均下痢回数は4.1回であった。喫食調査によると、酢の物(カキ、タコ、ナマコ、胡瓜)を全員が食しており、このうち有症者10名中9名が、また無症者6名中1名がカキを喫食したと申告しており、原因食品であることが疑われた。また、カキの原因食品としての可能性はX2検定によると5%危険率で有意となった。発生当初の細菌学的検査では、有症者に共通した食中毒関連の病原体は検出されなかった。このため、ウイルス性の下痢を疑い、電子顕微鏡によるウイルスの検出を行うため検体の採取を求めたところ、有症者10名のうち8名の発症後3〜4日目の便、ならびに5名の急性期の血清(2月4日採取)、8名の回復期の血清(2月22日採取)が得られた。

 Bishopらの方法によってウイルスの粗精製を行い、超遠心により約20倍に濃縮した糞便抽出物を電子顕微鏡によって観察した。8名の検体中5名よりSRVと思われるウイルス様の粒子(およそ30nm、形態的にカリシ様)が検出された。この粒子が感染性のウイルスかどうかを調べるために、患者血清による免疫電子顕微鏡法による確認を試みた。ウイルス陽性の5名の患者の急性期および回復期の自己血清を用いた。血清飯能は4℃で一晩行い、PBS(+)により洗浄後、陰性染色を行い電子顕微鏡によって観察した。急性期の血清ではウイルスの凝集像は観察されなかったが、回復期血清においては抗原抗体反応によると思われる凝集像が確認された。しかし、これはウイルス陽性5検体のうち1検体であったため、他の4名の便抽出検体についても凝集像を示した1名の血清を用いて、同様の試験を行った。その結果さらに2名についても凝集像が認められた。このことから、今回の事件はカキを原因食品とするSRVによる食中毒であると推測された。

 以上の報告で、細菌検査は兵庫医科大学病院中央検査部、臨床所見等は兵庫県西宮保健所食品衛生課の食中毒調査報告書によった。



兵庫県立衛生研究所 近平雅嗣 木村英二


表1.発症者に出現した症状





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