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Vol.8 (1987/11[093])

<特集>
腸炎ビブリオ


 腸炎ビブリオが食中毒の原因菌として指定されて以来,本菌による食中毒は細菌性食中毒の中で常に首位の座を占め続けている。

 1981〜1987年9月の間に地研・保健所から報告されたヒト由来腸炎ビブリオの検出総数は14,365例で,うち1,784例(12.4%)が輸入例であった。図1に腸炎ビブリオの月別検出状況を示したが,わが国では,いずれの年も7月〜9月の夏季に多発し,この3ヶ月で年間発生の約80%を占めている。一方,輸入例からは年間を通して分離されており,夏季以外の発生で輸入例の占める割合は60〜90%になる。

 1977〜1986年の間に発生した腸炎ビブリオ食中毒発生状況を表1に示した。この10年間に発生した食中毒総数10,965件中,腸炎ビブリオによる食中毒件数は,3,609件で,全食中毒の32.9%であった。また,食中毒の中で病因物質が判明した事件に限ってみると,腸炎ビブリオ食中毒の割合はさらに高く,10年間の平均は42%となる。発生順位も1982年の2位を例外としてあとの年はすべて1位であった。

 腸炎ビブリオ食中毒の原因食品は魚介類がトップで,魚介類加工品と合わせて45.8%を占めた。その他の中には乳肉類およびその加工品も含まれているがいずれも1%以下にすぎない。

 食中毒の発生した施設は飲食店が32%で最も多く,旅館,家庭,仕出し屋がほぼ同率(約15%)で続いており,学校(0.1%),病因(0.3%)などでの発生は少ない(図2)。

 1986年および1987年9月までの間に,地研・保健所から報告のあった“流行・集団発生に関する情報”から10名以上の集団発生を拾いだし,腸炎ビブリオ血清型の検出頻度を比べたのが表2である。腸炎ビブリオの血清型は,食中毒の疫学マーカーとしての価値は低いとされているが,いずれの年も04:K8が最も高頻度に,次いで04:K63が分離されており,これらが最近の主要血清型であることがうかがえる。また上位10菌型のうち6菌型が1986年と1987年の両年に検出されていることから,わが国の腸炎ビブリオの汚染状況とその変遷を観察するのに,腸炎ビブリオの血清型は有用な手段と考えられる。

 なお,厚生省生活衛生局では,本年,腸炎ビブリオ食中毒対策検討会を発足させ,第1回の委員会を7月に開催した。本特集で使用したデータ(表1および図2)は,同局の乳肉衛生課および食品保健課でまとめられたものを参考に編集委員会で作成したものである。



図1.月別腸炎ビブリオ検出状況(1981年1月〜1987年9月)−地研・保健所集計−
表1.腸炎ビブリオ食中毒発生状況(1977年〜1986年)(厚生省生活衛生局食品保健課編「全国食中毒事件録」より)
図2.原因食品別・施設別腸炎ビブリオ食中毒発生状況(1977年〜1986年)
表2.腸炎ビブリオ集団発生事例より分離された血清型





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