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Vol.8 (1987/8[090])

<国内情報>
腸炎起病性カンピロバクターの血清型に関する国際的統一について


 ヒトの下痢症に関与するカンピロバクターはほとんどがC. jejuniC. coliで, この他にC. laridisも下痢患者から検出されることもある。これらのカンピロバクターの生態の解析や,本菌による胃腸炎集団発生時の感染源や感染経路の追跡に血清学的分類が広く利用され,また,きわめて有用な手段であることが明らかにされてきた。

 これまでに開発されたカンピロバクターの血清学的分類法はスライド凝集反応法と受身血球凝集反応法に大別される。前者はカナダのLiorら,イスラエルのRogolら,および東京都立衛生研究所でそれぞれ独自に開発された方法であり,ホルマリン処理死菌を家兎に免疫して得た抗血清と生菌との間のスライド凝集反応である。型別用抗血清の吸収方法が研究者によりやや異なっている。後者はカナダのPennerやベルギーのLauwersらによって開発された方法で,菌体を100℃1時間加熱して抽出した菌体成分を抗原とする反応である。

 両システムともそれぞれ一長一短はあるが,血清型別法として実用性があることがそれぞれの研究者により明らかにされてきた。しかし,各々の型別システムの相互関係が明確でなく,お互いの成績を比較できないため,国際的に統一された血清型別法が望まれた。1981年にカンピロバクターの国際血清型別委員会が結成され,国際的な統一のための作業が進められてきた。

 1985年7月にカナダで開催された国際委員会でこれまでの活動の成績から本菌の血清型の国際的な統一に合意点が見いだされた。すなわち,易熱性抗原の型別法としてLiorのシステム,耐熱性抗原の型別法としてPennerのシステムを採用することを決定した。

 今年の6月にスウェーデン(Gothenburg)で開催された国際型別委員会で,両型別システムの応用やその後の改良点が報告された。

 Liorの血清型は1985年の報告では62型であったが,現在は92型に分類された。LiorのシステムはC. jejuni(55株),C. coli(29株)およびC. laridis(8株)を抗原として作成された血清であるが,菌種ごとに整理されたものでなく,ランダムに配列されている。血清型別に関与する抗原は鞭毛が中心であるが,これ以外に表在性抗原の関与も考えられている。

 PennerのシステムはC. jejuniC. coliの両者の抗原に交差が少ないこと,および分類学的に菌種が異なることから,両者を区別した型別法である。また,Kauffmann & Whiteのサルモネラ分類に類似し,共通する抗原を一つのグループとして分類した。すなわち,C. jejuniをA-Z10群の36群に,C. coliをA-Q群の17群に分類した。ただし,C. jejuniC. coliの抗原には一部共通するものも認められる。血清型に関与する抗原成分はリポ多糖体であると考えられている。

 わが国でも,国際型別委員会の答申を尊重し,LiorのシステムあるいはPennerのシステムを導入しなければならない。国立予防衛生研究所と地方衛生研究所とで結成された「公衆衛生微生物検査における精度管理に関する研究」班の中にカンピロバクターの血清型別システムについて検討するワーキング・グループ(秋田衛研,愛知衛研,大阪公衛研,神戸環保研,広島衛研,山口衛研,熊本衛研,都衛研)があり,1985年より活動してきた。本ワーキング・グループでは,都衛研のシステムがLiorのシステムに最も類似していること,WHOがLiorのシステムを奨励していることから,Liorのシステムを導入することにした。昨年には各地研で分担してLiorの18種の型別血清(一部都衛研のシステムの血清型を含む)を作成した。今年度は本型別セットを実用化した場合の問題点を各地研の協力により分析し,わが国で使用できる型別システムを早急に確立するよう計画している。

 なお,ベルギー(Sopar-Biochem社)で試作されたLiorの型別血清は不完全なものであり,当分市販化される予定がないことを付記する。



東京都立衛生研究所・多摩支所 伊藤 武





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