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Vol.8 (1987/5[087])

<国内情報>
東京都におけるSRV検出状況(1984年12月〜1986年3月)


 1984年12月から1986年3月までの期間に東京都衛生局に報告された食中毒事件(発生場所が都外で患者住居地は都内の事件を含む)と患者5人以上の有症苦情事件の合計は252件で,患者総数は7,380人に達した。そして,その63%は各種細菌に,1%は化学物質に起因することが明らかにされた。しかし,残り36%に相当する91事件,患者3,910人(53%)については,従来の細菌学的,ウイルス学的検査法では原因を解明することができなかった。それら原因不明事件についてみると,事件数では86%(91件中78件),患者数では98%(3,910人中3,814人)が冬季に発生している。

これら原因不明急性胃腸炎患者の多くに共通の臨床所見が認められた。すなわち,初発症状は嘔気,主症状は嘔気,嘔吐,下痢,腹痛のいずれかであり,推定潜伏時間は約40時間,発症から回復までの期間は3日以内,および予後は良好という点である。このような臨床症状の特徴はSmallround virus (es) に起因したと報告されている急性胃腸炎患者の症状と共通している。そこで,都立衛生研究所では,SRVに焦点を絞って上記急性胃腸炎の原因究明を試みた。SRV検索には電子顕微鏡を用いた。

上記原因不明事件91件のうち,電子顕微鏡検査に適した糞便材料が入手できた50事件(食中毒事件33件,有症苦情事件17件)の患者315人(食中毒事件164人,有症苦情事件151人)を対象として糞便中のSRV検索を実施した。その結果,41事件(82%)の患者164人(52%)からSRVが検出された。カキ喫食との関係の有無に分けてSRV検出率を比較すると,いずれの場合にも,事件数の約80%,患者数の約50%からSRVが検出されている(表)。しかし,個々の事件の概要を詳しく検討すると両種の事件には著しい差が認められた。すなわち,カキ関連事件の発生場所は飲食店と家庭に限定され,事件の規模は小さく,患者数が50人を越える事件は発生していない。これに対し,カキ非関連事件の発生場所は幼稚園,小・中学校,大学寮などの学校施設,旅館,飲食店,家庭など多岐にわたった。また,事件の規模も多様であり,患者数が数人の事件から1,000人を越す事件まで含まれた。その中には仕出し弁当による1事件(患者総数835人)や,学校給食が疑われる1事件(患者総数1,047人)など食品を介したと推定される大規模な事件のほか,小学校で大規模に発生し,食品との関係が不明な1事件(患者総数577人)も含まれている。

検出されたSRVの形態はいずれもNorwalk様ウイルスの特徴を有し,これ以外のSRS(structural)VやSRF(featurdless)Vは検出されなかった。

 次に,比較的ウイルス量が多く得られた18事件(カキ関連17事件を含む)のSRVについて抗原性の異同を免疫電子顕微鏡法により検討した。その結果,これらのSRVは少なくとも7種類に分類されることを明らかにしえた。また,同一事件に含まれる複数の患者由来のSRVは抗原的に均一であることが,検討した5事件のすべてにおいて確認された。

 今回SRVが検出された41事件は,調査期間中に発生した原因不明事件91件の45%に過ぎない。しかし,そこに含まれる患者総数は3,465人であり,原因不明事件の89%にも達する。すなわち,今回の調査により,主として冬季に東京都で発生する急性胃腸炎はSRV感染症によるものが主流であることが判明した。また,同一シーズンに抗原性の異なる多種類のSRVが流行することも示唆された。



東京都立衛生研究所 安東 民衛 関根 整治 林 志直 寺山 武 大橋 誠 岡田 正次郎


原因不明急性胃腸炎事件におけるSRV検出状況





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