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Vol.7 (1986/10[080])

<国内情報>
感染性腸炎研究会報告 1985年 5.過去10年間(1975〜1984年)の集団赤痢について(1)


 感染性腸炎研究会に所属する都市立14伝染病院および埼玉県衛生研究所より資料の提供を受け,これらの施設が関与した1975年以降10年間の集団赤痢(10名以上の発生)を対象として,その疫学的観察を行った。対象となった集団はその発生原因や発生母体が多岐にわたっていたので,輸入例群,宿泊施設関連群,飲食店関係群,幼稚園,保育園および小学校群,養護あるいは福祉施設群,地域発生群,その他の7群に大別して解析した。

 総件数は41件で,このうち養護福祉施設群には3件の保菌者のみの集団が含まれる(表1)。年次別では1975および83年に多発がみられ,これは厚生省の全国統計と同じ傾向を示した。

 各群の発生件数と罹患人員(表2)をみると,輸入例群は9件と最多であったが,罹患者はいずれも29名以下であった。これとは対照的に,地域発生群は件数が少ない反面,いずれも30名以上の大規模発生であった。集計協力施設から寄せられたコメントによれば,地域発生や一部の幼稚園などの群の中には発生初期に感冒などによる下痢として初発患者が処理され,これが大量発生につながったと指摘している。また,宿泊施設群の1件(51名の発生),飲食店群の1件(620名)の発生原因はいずれも水系感染であった。

 発生から終息までの期間(表3)は各群とも罹患人員とほぼ並行していた。特に輸入例群はいずれも10日以内に終息しており,これは検疫所,保健所の予防対策が早期に有効に働いたためと考えられた。

 月別発生(表4)の各群の特徴を挙げると,宿泊施設群では4,8,12月に限られていたが,これは学生等が休暇中に合宿として施設を利用した結果であった。また,幼稚園等の群は1件を除き冬季に集中しており,前述した通りかぜによる下痢として早期発見を見逃したことと関係が深い。

 次に各集団例について罹患者の居住地を都道府県別にみると,7都府県にまたがるものは1件,5都府県は2件,3都府県は6件,2都府県は3件,1都府県のみは29件であった。輸入例群,宿泊施設群では居住地が広域化する傾向が特に強かった。



感染性腸炎研究会参加都市立14伝染病院(市立札幌病院南ヶ丘分院,東京都立豊島病院,同駒込病院,同墨東病院,同荏原病院,川崎市立川崎病院,横浜市立万治病院,名古屋市立東市民病院,京都市立病院,大阪市立桃山病院,神戸市立中央市民病院,広島市立舟入病院,北九州市立朝日ヶ丘病院,福岡市立こども病院・感染症センター)に1985年に収容された感染性腸炎症例による。



感染性腸炎研究会(会長 斉藤 誠)
清水 長世(東京都立荏原病院)
松原義雄(東京都立豊島病院)ほか


表1.年次別集団発生件数
表2.罹患人員(保菌者を含む)
表3.発生から終息までの期間
表4.月別発生件数





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