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Vol.7 (1986/6[076])

<国内情報>
1986/87シーズン用インフルエンザワクチン組成の変更−A/山形/120/86(H11)が追加されるまで


 例年より2ヶ月も早い出足となった今シーズン(1985/86)のインフルエンザは,A/ホンコン(H32)が主流を占めた。11月に入ると,インフルエンザ様患者は増加の一途を辿り,12月後半には40万人近くにも達するという珍しい事態に陥った。原因として,予防接種が間に合わなかった共湿度が影響したとも伝えられたが,いずれも説得力のある根拠を示さなかった。

 抗原分析の結果は,3つの変異種が一緒に動いた形跡を示し,A/福岡/C29/85で代表される第3の変異種は,ワクチンで制圧できるのだろうかと心配された。これが,冬休みの明ける1986年の初頭に本格的に動き出してA/ホンコン型による流行はさらに膨らむのではないか,そして,低湿度はこれに一層拍車をかけるであろうという予想が立てられた。少なくとも,我々のこれまでの経験に従えば,このような結論に至っても無理のない生態学的環境が作られていた。にもかかわらず,1月に入ってホンコン型ウイルスは全く動きをみせなかった。

 一方では,そうした静かなインフルエンザシーズンの経緯の中で,ワクチン株の選定作業が精力的に進められ,1986年のインフルエンザシーズンは次の3株で迎え撃つという結論に達した。

 1.A/福岡/C29/85(H32

 2.A/バンコク/10/83(H11

 3.B/茨城/2/85

関係者は,とにかくこれで一件落着したものと安堵した。

 それからしばらくのち,横浜市でAソ連(H11)型ウイルスが分離されたというニュースが入ってきたが,少なくともこの時点ではワクチン対策を揺るがすほどのものではなかった。ところが,我我の虚を突くようにして,このソ連型ウイルスは不思議な挙動を見せはじめ,学童の集団発生として,また大人の散発例として,神奈川に次いで長野,富山,宮城,山形,埼玉,山梨および東京でもウイルスが確認され,予想以上の広範囲に播種されていることが分った。流行前線で分離されたウイルスの抗原性は同一範疇にあるとみられたので表には抗原分析の1例を示した。すでにワクチン株として決定したA/バンコク/10/83(H11)ウイルスに対するフェレット感染血清は自分自身,つまりホモに対して512の値を示す時,横浜および山形の株には64の反応を見せた。逆にA/山形/120/86に対する抗血清はホモとA/横浜/4/86に2048〜8192という高い値を示したが,ワクチン株と変異種間相互にわたる中和活性まで詰めて検討すべきだが,夏場に検定し,少なくとも晩秋までに接種を済ませなくてはならない“季節もののインフルエンザワクチン”のスケジュールにあわせざるを得ず,急拠ワクチン株と各株の含有量を次のように変更した。

 1.A/福岡/C29/86(H32) 200C.C.A.

 2.A/バンコク/10/83(H11)200C.C.A.

 3.A/山形/120/86(H11)  150C.C.A.

 4.B/茨城/2/85       150C.C.A.

 合計 4株   700C.C.A/ml相当量

 次のインフルエンザシーズンで何が主流を占めるかは,敢えて予想しないが,あとは関係者の努力が功を奏して欲しいと祈るばかりである。



国立予防衛生研究所 ウイルスリケッチア部第3室


 1986年3月〜4月にわたって分離されたワクチン候補ソ連(H1N1)型ウイルスの抗原分析





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