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Vol.7 (1986/5[075])

<国内情報>
日本脳炎 1985年


 ブタの日本脳炎感染調査

 ブタの飼育は日本では誠に盛んであり,北は北海道から南は沖縄まで,推定約1,000万頭が全都道府県にわたり飼育されている現況である。

 これらのブタはヒトより遥かに日本脳炎ウイルスに対する感受性が高く,しかもその約8割が食用豚であり,生後6ないし8ヶ月後には屠殺されるので前年の日本脳炎流行期に感染を受けず,免疫が無いため毎年日本脳炎ウイルスに広く感染し,我が国の日本脳炎流行のよいインジケーターとなっている。厚生省では日本脳炎流行予測事業として全国の都道府県の協力の下に毎年,各地でブタの抗体獲得状況を検査し,日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調査している。以下1985年のブタ感染状況を「感染のはじまり」,「感染のひろがり」に分けて説明する。

 A)感染のはじまり

 本年のブタ感染も例年とほぼ同じく,6月末から7月初めにかけて沖縄で始まった。沖縄では北部と南部の2箇所で調べているが,きまって水田のある北部のブタが先に感染する。本年,本土で最も早かったのは熊本県で,7月5日に70%のブタが日本脳炎に感染した。ついで7月末には長崎,佐賀を除く九州全県,山口,香川,愛媛,三重に50%を越えるブタ感染がみられた。8月早々には近畿の和歌山,奈良,兵庫それに珍しく山梨のブタの感染が50%を越えた。

 B)感染のひろがり

 昨年同様感染の拡大は迅速に進行し,8月中に広島を除いた西日本の全府県,日本海沿岸,関東の神奈川,千葉,茨城,埼玉に及んだ。驚くべきことに,秋田のブタ感染が8月19日に52%を記録した。図1にみるように,本調査終了時の10月末には北海道,岩手を除く日本全国で50%以上のブタが日本脳炎に感染したことになった。流行末期の結果だけをみればこの感染のひろがりは1966年の大流行時とあまり変わらない。もちろん,現在の患者数は当時の100分の1ほどで,近年ではブタとヒトの日本脳炎感染の機会の差は大きくひらいている。

 日本脳炎確認患者

 1985年における我が国の日本脳炎患者確認数は厚生省保健医療局感染症対策室による日本脳炎患者個人票の集計結果によれば表1のとおりである。総数は38名,うち死亡8名で,致命率は21.1%であった。性比は男27:女11で男が例年より多い。地方別発生では,近畿が最も多く12名,ついで九州(10名),中国(6名),中部(5名),四国(3名),関東(2名)の順になっている。

 年齢別では70歳以上が8名と高齢者多発の傾向は認められるものの50代8名,40代4名,30代5名と平均化の傾向も見え始めている。特記すべきは学齢期の6歳から29歳までの患者は1名のみで,明らかに予防接種の効果が窺われる。注目すべき第二点は,5歳以下の患者が6名も発生していることである。予後は年齢との関連が希薄になってきている。死亡例は少なくなってきているが,その分後遺症が19名と増加し,完全治癒は11例(29%)に過ぎない。

 全患者38名中予防接種歴ありと記された者は2例あるが,いずれも以前接種と記されており,いつ接種を受けたのか明らかでない。



国立予防衛生研究所 大谷 明


図1.ブタの日本脳炎感染状況 1985年
表1.日本脳炎患者発生状況 1985年





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