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Vol.6 (1985/12[070])

<特集>
ポリオ


わが国のポリオの届出数は,届出伝染病に指定された1947年以降毎年1000〜4000名であったが,1960年は北海道を中心に1型の大流行が発生し,患者数は5606名に達した。さらに1961年に九州で大流行のきざしがみられたため,1961年7月から,生後3ヶ月から5歳(九州と北海道では9歳)の全小児にソ連およびカナダかた緊急輸入された3価混合生ワクチンが一斉投与された。1962〜63年には12歳以下の全小児に最低2回の投与が完了し,1964年以降は国産生ワクチンを用いて新たに出生した幼児の定期接種が開始された。このワクチン投与によって患者数は激減し,麻痺患者確認数は1962年は63名,その後1969年までは毎年20名前後,1970年以降は年間平均2名の割合である。

ポリオ監視委員会によれば,1962年から1985年10月までに確認された定型ポリオ患者は234名である。このうち野外株が分離されたのは3名(1968年1型,1971年3型,1980年1型)で,残りの231名は疫学的にワクチン株が原因と考えられ,得られた分離株はすべて生ワクチン由来株と判定された。231名中95名は生ワクチン服用歴があり,93名は服用後1ヶ月以内に発症したワクチン関連症例,2名は免疫不全症で,そのほとんどは,2型または3型が関与している。残る136名の大半は疫学調査で直接または間接的にワクチンウイルスとの接触が証明され,この場合には伝播力の強い2型によることが多く,1型の症例はなかった。

図1に病原体検出情報システムによって報告された1979〜1985年6月のポリオウイルス検出数を月別に示した。ウイルスは毎年春と秋のワクチン投与期に一致してヒトおよび環境水から分離される。1984年1月〜1985年6月にヒトから134(便材料83,鼻咽喉材料63),環境(河川水,下水)から22,合計156件のポリオウイルスが培養細胞を用いて分離された。156のうち151はサーベイランス定点または監視・特定研究の検体からの分離である。流行予測事業(ワクチン投与後2ヶ月以上経過した時期に実施される)において分離されたのは1例のみなので,上記分離ウイルスは大部分生ワクチン由来株と考えられる。

ポリオウイルスを検出したヒトの年齢はワクチン接種年齢である0〜1歳に集中し,9歳以上からは検出されていない(表1)。

ヒトの分離例についてポリオワクチン接種歴をみると(表2),1型および2型はワクチン1回接種者,3型は2回接種者が多く,この成績は血清疫学調査において3型が1回目より2回目服用時に反応する例が多いことと一致する。

図2は1984年秋に流行予測事業で実施されたポリオ抗体保有調査の結果である。7〜9歳で1型に対する抗体保有率が低く,また3型はワクチン接種年齢以後徐々に低下し,この2つの型における上記年齢の保有率は一斉投与後の状況に比べて明らかに低下している。

わが国では生ワクチンによる集団免疫によって野外株を排除した。しかし,近隣諸国ではまだポリオが常在しているので,抗体保有率の低下はそのまま野外株の侵入を許す状況を作り出すことが懸念される。1972年以降検出されなかった野外株が1980年に定型ポリオ患者から分離され(上述1型),さらにその後1984年に脳炎症状を伴った例から1型野外株の検出が報告されている。今後厳重な監視の必要性が強調される。



図1.月別ポリオウイルス検出状況(1979年1月〜1985年6月)
表1.年齢別ウイルス検出状況(ユライヒト)1984年1月〜1985年6月(1985年11月26日までの報告の累計)
表2.ポリオワクチン接種歴
図2.年齢別ポリオ中和抗体保有状況(1:4以上)(流行予測事業 1984年速報)





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