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Vol.6 (1985/1[059])

<国内情報>
高知県における異型肺炎について


Mycolasma pneumoniae(以下M. pnと略す)による異型肺炎は国内外ともに4年周期で流行が繰り返されている。高知県サーベイランス事業の33医療機関定点での異型肺炎月別発生状況(図1)では,1980年は7月,1984年は5月より流行がみられた。また,いずれもその約1年前から患者の増加傾向があった。1976年は観測例は少ないが,7月より患者が増加し,流行開始期は1976,80,84年とも初夏であった。

材料および方法:当衛研では,1976,80,84年M. pnによる流行確認のため,高知市内1小児科を検査定点とし分離を行った。検体は,治療開始前の患者の咽頭ぬぐい液を10%ウマ血清加トリプトソイブイヨンに採取した。1976,80年はその1/10量をPPLO液体培地(ブドウ糖1%,フェノールレッド0.002%)に接種,振盪増菌培養後,PPLO寒天培地で分離培養した。1984年は定点にて二層培地(ブドウ糖1%,フェノールレッド0.002%,メチレン青0.001%)に接種,検体集収日(毎週月,木曜日)まで37℃で増菌した。その後ひきつづき衛研にて二層培地を1日2〜3回手振りし,培養した。その結果ブドウ糖分解性を認めた後,PPLO寒天培地に培養液を接種,高湿度環境下で分離培養した。発育した集落は形態観察後クローニングし,各生化学的性状により同定した。

結果:M. pn分離成績を表1に示した。検査数68名中分離陽性者は50名,分離率は73.5%であった。これに比し直接分離培養の分離率は36%で,増菌培養後に比べ1/2にとどまり,振盪増菌培養法が良好であった。

M. pn分離陽性者のうちペアー血清の得られたのは33名でIHA抗体価の有意の上昇が認められたのは32名(97.0%)であった。

臨床像:1984年6月〜10月に発病し,臨床的にマイコプラズマ肺炎と診断され,咽頭ぬぐい液からM. pnが分離された15例についてまとめてみた。

年齢は2歳から14歳。マイコプラズマ肺炎の好発年齢とされる5歳以上が13例(87%)であった。症状は発熱と咳嗽が全例に認められた。この他には嘔吐,下痢,腹痛,蕁麻疹(3例),および胸膜炎(1例),咽頭炎(1例)が見られたが,中耳炎,中枢神経疾患は見られなかった。発熱は39℃以上が12例(80%)に見られたが,1例は37.9℃以下にとどまった。発熱期間は大部分が6〜8日であったが3日以内が2例,14日が1例であった。咳嗽も全例に見られたが,15例のうち4例(27%)では病初期に軽度のものまたは認められないものもあった。この4例中2例は発熱,眼球結膜充血,咽頭発赤,咽頭痛で発病し,病初期にはPCFが疑われた。1例は嘔吐下痢症で,他の1例は扁桃炎で発病した。入院加療を要したのは6例(40%)であった。胸部X線所見で,浸潤陰影の部位は左上肺野(40%),左下肺野(20%),右下肺野(20%)であった。ほぼ全例に胸部X線の浸潤陰影に一致して限局性に湿性ラ音が聴取された。

白血球数は6000以下のものが7例(50%),10000以上は1例のみであった。定点で行った寒冷凝集反応は5例のペアー血清と2例の回復期血清で全例に4倍以上の上昇,または1024倍の凝集価が得られた。血沈値は検査した13例中9例(70%)が1時間30mm以上であった。CRPは検査した6例全てが(++)〜(+++)以上であった。



高知県衛生研究所 森山ゆり 千屋誠造 岡本 周一
細木小児科 浜田義文 倉繁 迪


図1.高知県における異型肺炎の患者発生状況(高知県サーベイランス情報)
表1.高知県におけるM. pnの分離状況



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