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Vol.5 (1984/10[056])

<国内情報>
急性胃腸炎に関するウイルス粒子の消長


 愛媛県においては,1980年1月から現在まで,松山市の1定点観測医院外来患者を対象に,小児の急性胃腸炎の病原検索を行ってきた。今回は,電子顕微鏡法で検出された種々のウイルス粒子の消長について報告する。

 ウイルス粒子の分類は,形態観察によった。アストロウイルスとカリシウイルスの分類はMadeley1)の記載に従い,35〜40nm粒子は音更ウイルス類似の粒子とした。また,直径が20〜30nmで表面構造が不明,辺縁が明瞭な粒子を便宜上ピコルナ/パルボウイルス様粒子(PP粒子)とした。

 本年5月までの53ヶ月間に,計2006例の糞便から,電顕法により653例(32.6%)のウイルス粒子を検出した。その内訳は表1に示した。ロタウイルスが最も多く337例,次いでPP粒子が107例,アデノウイルス85例が検出された。その他にも,アストロウイルスや35〜40nm粒子,カリシウイルスが低率ではあるが,ほぼ毎年検出されており,胃腸炎に関連する地域常在性のウイルスが多種あることがわかった。

図1には,これらのウイルスの月別検出率を示した。ロタウイルスは毎年寒冷期に流行する周期性を示した。アストロウイルスは3月から6月にかけて検出されており,このウイルスの流行に季節的要因が関与していることが伺われた。特に,1981年5月には,本ウイルスの検出率が27%にも上昇しており,時として地域的に大きい流行をすることが示された。PP粒子には,エンテロウイルスをはじめ,多くのウイルス粒子が包含されていると考えられるが,1982年の冬に30%を超える検出率を示したことは,この時期にある特定のウイルスが流行したものと考えられた。アデノウイルス,35〜40nm粒子は,ほぼ年間を通じて検出されるが,明らかな季節的消長はみられなかった。カリシウイルスはまだ例数が少ないが,夏期には検出されていない。

 このように各種のウイルスが各々固有の消長形態を持つことが明らかとなりつつあり,これらの知見は,ロタウイルス以外のいわゆるその他の流行性下痢症や非細菌性食中毒の解明を試みる上で有用と考える。

(文献)

1)Madeley,C. R., et al.:J. Infect. Dis. 139,519〜523(1979)



愛媛県立衛生研究所 山下 育孝,大瀬戸 光明


表1.急性胃腸患者からのウイルス検出数
図1.小児急性胃腸炎患者からの月別ウイルス検出状況





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