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Vol.5 (1984/3[049])

<特集>
サルモネラ感染症−わが国で検出されるサルモネラの血清型


 わが国におけるサルモネラ食中毒は1965年頃では年間50〜60件の発生例であったが,1970年頃よりやや増加の傾向がみられ,1979年では発生数130件,患者数3197名である。1980年では105件(患者数2546名),1981年では123件(患者数3781名),1982年では109件(患者数2936名)のサルモネラ食中毒が報告されている。これら食中毒として診断された他に,病院の入院や外来下痢症のなかにもサルモネラ腸炎の占める割合が高く,大人の場合では腸炎ビブリオについで多く,小児や子供ではカンピロバクターについで多くの患者発生がある。また,海外旅行者下痢症からもサルモネラが多数検出されている。

 サルモネラはウシ,ブタなどの家畜,ニワトリ,七面鳥などの家禽,イヌ,ネコ,小鳥などのペット,ハトなどの野鳥,淡水魚,爬虫類などあらゆる動物に広く分布しているし,市販の食品,特に生食肉の本菌汚染が高い。その他,下水,屠場排水,河川あるいは調理施設の環境などにも分布しており,これらの各種の材料を対象にした検査が実施されている。

 ここでは1979年から1982年の4年間に病原微生物検出情報に報告されたサルモネラの血清型(チフス菌・パラチフス菌を除く)について紹介する。

 ヒトから検出されたサルモネラの分離菌株数を月別に図1に表示した。国内例(食中毒や健康保菌者検索で検出されたものが大部分で,その他に病院で分離された菌株も含まれる)では,いずれの年でも6〜10月の夏期から初秋にかけて分離例が多い。これは本期間内でのサルモネラ食中毒や散発下痢症例が多いことによるものと考えられる。また,夏期には健康者を対象にした病原菌保菌者検索が多く実施されることにも関連するものと思われる。輸入例(海外旅行者から検出されたもの)では季節による変動はほとんど認められないが,海外旅行者の多い8〜9月および12月〜1月にやや多い傾向がうかがえる。

 サルモネラをO群で分類した場合,A〜Z群および51〜67群の計43のO群に分類される。その血清型は2056型(1980年)の多種類に分類されている。1979〜1982年の4年間で血清型が報告された菌株数はヒトでは20,012株,動物由来が572株,食品由来が2,357株および環境由来が11,106株である(表1)。国内例ではほとんどの菌株(97.2%)はA〜E群までに該当し,とくにB群,C1群,C2群,D1群,E群が多い。輸入例では国内例と同様にB群やC1群が多いがD1群は少ない。A〜E群までが全体の95.1%を占めていた。

 おのおのの血清型でみた場合,ヒトの国内例では172菌型, 輸入例では126菌型に型別され,極めて多彩な血清型が認められた(表2)。国内例ではS. typhimuriumが最も多く,全体の21.5%を占めていた。次いでS. enteritidis,S. litchfield,S. braenderup,S. infantis,S. thompsonなどがみられる。

輸入例ではS. typhimuriumよりS. anatum,S. derbyおよびS. agonaなどが多数検出され,国内例の場合とはやや主要血清型を異にしている。また,国内例では少ないS. weltevredenが66株認められる。逆に国内例で高いS. enteritidisやS. litchfieldなどが低い。これらヒト由来の血清型はほとんどが亜属Tに属し,亜属Uは41株,亜属V(アリゾナ)は6株,亜属Wは1株にすぎない。亜属UやWについては,病原性が明確でなく,これらの菌株が下痢患者から検出された際には,臨床症状や他の病原菌との関連性についても調査する必要があろう。

 動物,食品,環境のいずれに由来する株も,S. typhimuriumが多く,S. derby,S. infantisなどヒトと同様な血清型が多く認められる。ただし,食品由来株では亜属Uに分類されるS. sofiaが多く,309株報告されている。本菌型のサルモネラは1972年頃では健康者からしばしば検出されていたが,現在では極めて少なく,4年間の集計ではヒト由来40株(0.2%)である。なお,S. sofiaはニワトリに広く分布していることが知られており,動物由来のS. sofia44株もほとんどがニワトリに関連するものと推察される。

 S. enteritidisはヒトの国内例から極めて多くみられているが,動物,食品,環境ではそれほど多い血清型ではない。1960年以前では,S. enteritidisが最も多いポピュラ−な血清型であったが,その後,漸次減少し,集団食中毒や散発例も少なくなってきている。本集計ではS. typhimuriumに次いで多いが,これは1979年埼玉県でS. enteritidisが学童より多数検出(1536株)されたためであって,他の年ではヒトからの検出菌株数は年間100〜200株にすぎない。

 1963年以前ではヒトから検出されるサルモネラの血清型はS. enteritidisが主体で,次いでS. typhimurium,S. thompsonなど40菌型が報告されていた。その後,1970年代頃より,わが国で認められていなかったS. cerro,S. panama,S. agonaなどのサルモネラが認められ,現在ではこれらのサルモネラがわが国に常在するようになった。近年,サルモネラで汚染された食肉や乾燥鶏卵あるいは動物用飼料などが諸外国より輸入されてきたため,わが国で検出されるサルモネラの血清型も欧米諸外国の血清型に類似してきた。また,東南アジアなどの海外旅行者からも各種のサルモネラが検出され,わが国のサルモネラの血清型の多様化の一因をなしているものと考えられる。



図1.月別にみたヒトからのサルモネラ検出菌株数 1980〜1982年(チフス菌,パラチフスA菌,B菌を除く)
表1.ヒト,動物,食品および環境由来サルモネラのO群(1979〜1982年)
表2.ヒト,動物,食品および環境由来サルモネラの主要血清型(1979〜1982年)





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