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Vol.5 (1984/1[047])

<国内情報>
最近のAHCウイルスについて


 1972年桑名市で流行した出血性結膜炎ウイルスはHeLa細胞やMK細胞で特徴のあるCPEを認め,25%の分離率であった。しかしながら,最近はAHCウイルスの分離は非常にむずかしく,当県でも1983年は,現在まで5月の結膜炎患者からMK初代細胞で1株を分離したにすぎない。そこで三重県での最近5ヶ年間の結膜炎患者からのウイルス分離成績を報告する。

 表1は1978年から1982年の5ヶ年間の488人からの分離成績である。488人からアデノウイルス61人,12.5%,AHC66人,13.5%が分離され,結膜炎患者からウイルスを分離した26.2%のうち,約半数がAHCウイルス感染者であった。

 図1は結膜炎患者127人の月別発生数を示した成績である。アデノウイルスでは3月から8月頃をピ−クになだらかな流行の推移を示すのに反して,AHCウイルスでは月別の変動が大きく,3月,6月あるいは8月といったところに突出型の患者発生が認められ,両ウイルスの流行に大きな違いが認められた。

 図2は66人のAHC患者の年齢別発生率を示した成績である。20歳から40歳に患者が集中し,66人中37人,61%を示している。このことはAHCの症状の発現頻度は成人に激しいことを示している。家族内感染では小児にも患者はみられるが,症状は軽度であることは協同研究者である丹羽医師が指摘している。この5ヶ年間の乳幼児からのウイルス分離は9人,14%であった。

 表2は年間22人の患者からAHCウイルスを分離した年に,その分離に使用した細胞の分離率を比較した成績である。HeLa細胞では40.9%,MK細胞63.7%,HEL細胞77.3%で,単一細胞ではHEL細胞による分離率が最も高かった。

 これらの細胞を組合せた場合の分離率の比較を示したのが表3である。MK細胞とHEL細胞の組合せが最もよく,22名の患者すべてから分離できた。このように単一細胞を使用するよりも,それぞれの細胞を組合せたほうがよい分離成績が得られた。

 AHCウイルス株の中にはHeLa細胞やMK細胞でしか増殖しない株が認められるところから,AHCウイルスの流行にあたっては感受性のよい細胞を選定することが必要であると思われる。

 初代MKが比較的感受性のひろい細胞であるが,昨年から分離しているウイルス株では,CPE像の確認が非常にむずかしく,培養日数の経過にともなって著明になることもないので,ていねいに観察し少なくとも3代までは継代する必要があると思われる。

 AHCの臨床像について,丹羽医師は1971年の流行時は,感染後6〜24時間で異物感があり,結膜の充血や眼痛とくに結膜下出血がほとんどの患者に認められて診断は容易であったが,最近のAHC患者では眼痛や結膜下出血の軽症化が認められるため診断がむずかしくなっているが,相変らず頭痛,頸部痛等の不定愁訴を示す患者があるといっている。



三重県衛生研究所 桜井 悠郎


表1.1978〜1982年結膜炎患者からのウイルス分離
図1.結膜炎患者月別発生数 1978〜1982年
図2.AHC患者の年齢別発生率
表2.1981年AHC分離患者の割合(患者22名)
表3.培養細胞の組合せによる分離率(患者22名)





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