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Vol.4 (1983/11[045])

<外国情報>
食肉処理者におけるレンサ球菌敗血症の予防−英国


 Fraserと協同研究者が食肉処理者におけるレンサ球菌敗血症の集団発生を報告して以来,さらに事例が追加承認されてきた。1975〜82年の8年間に,13の集発例と33の散発例がCDSCに報告されている。集発事例における罹患者数は,リスクにある人達の9〜56%とまちまちである。1978年に次のような目的をもって調査委員会が設立された。(1)食肉関連レンサ球菌感染症に対する関心を高める。(2)集発や散発例の報告を奨励する。(3)食肉関連レンサ球菌敗血症の予防と制御に適切な指示ができるような情報を集める。本報告は予防に関して一応の勧告を与えうる調査の進行状況をまとめたものである。

 季節と発症ならびに臨床経過:集発が秋に多いということは,この季節に牛を屠殺し,食肉処理の機会が多いことの反映であろう。この英国での発症パターンは,イースターの季節に多いというノルウェイとは対照的である。一方,散発例は集発のピーク時より遅れてくるのが特徴的で,おそらく仕事場でのフォーカスが一般社会に広がる結果であろう。集発の場合,同じリスクにある人達の多くが罹患しうる。病巣には,程度はそれ程ではないが,黄色ブドウ球菌が共存生着しているのが一般的である。β溶血レンサ球菌がその傷に存在する場合には治療しないかぎり痂皮(かさぶた)が数日,ときには数週も持続する。多くの事例は再感染がないかぎり,おのずから限局されるものである。しかし,ある施設においては,同じ血清型が3年連続して毎秋敗血症の集発を起こしている。

 食肉関連レンサ球菌の源泉と食肉内での増殖:A群β溶血レンサ球菌の源泉は食肉にあるのではなくて,肉は単に人から人への菌の伝播と生残の運搬体として働いているにすぎない。また,輸入や輸出に際しての長期の保存も,レンサ球菌に寄与するところはない。食肉も手を用いない機械的な操作のみによる処理の場合には,そこからレンサ球菌の分離されることは稀である。春においては,食肉取扱者のすべての病巣の1%からβ溶連菌が分離され,初秋の頃には6%から分離される。軽工業やチーズ,そして魚肉の従事者の同人数からは分離されなかった。食肉従事者においては,レンサ球菌は腐敗性病巣からはとりわけ頻度が高く,春には15%,秋には27%に及ぶ。

 ある特定の株の分離頻度が高いということはあるが,多くの血清型のA群レンサ球菌が原因となる。菌は食肉処理者の病巣,皮膚,鼻から分離されるが,また,仕事場の表面,流し,蛇口,手袋,ナイフ,肉などからも分離できる。敗血症の成立には,骨に由来するほこりや破片が寄与していることも示唆されている。食肉にかかわりのある株は,特に肉の表面や内部で増殖がはやいという証拠は得られていない。

 予防と制御:食品衛生法や屠殺場衛生法を守ることが予防のために益することは当然であるが,しかしそれでも各施設の衛生状態はまちまちで,さらに改善の要がある。結局は環境衛生をきびしくし,腐敗病巣の抗生物質療法を併用することにつきる。閉鎖的包帯や手の消毒がどれほど有効であるかは証明されない。いくつかの食肉処理施設を選んで,数年にわたる先取り調査を実施し,敗血症の発生を経常的に記録することが必要である。リスクにある人達からの発生率,仕事量との関係などを定期的に,できたら週毎に記録すべきで,このためには職業保健婦,医師,環境衛生管理官,細菌検査技師等の協力体制が必要である。

(CDR,83/34,3)






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