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Vol.4 (1983/9[043])

<外国情報>
AIDS最近情報


 欧州:1983年6月30日現在,WHO欧州地方事務局に欧州14ヶ国から報告されたAIDS患者は表の通りである。アルバニア,アルジェリア,チェコスロバキア,西独,ギリシャ,ハンガリー,ルクセンブルグ,トルコ,ユーゴスラビアは「患者発生なし」と報告,他の9ヶ国は情報が得られていない。患者の大部分はホモまたはバイセクシャルの男性(女性は7)で,確認患者2と疑似患者3は血友病患者であった。ほとんどの患者は過去5年間にアメリカ,アフリカまたはハイチに旅行している。ベルギーでは2人以外はザイール人。オランダの1人はニカラグア出身。フランスの最初の患者は1981年に発見された。WHO欧州事務局は10月19日〜21日までデンマーク,ArhusでAIDSに関する会議を開催し,報告様式の統一システムを決める予定。

(WHO,WER,58,No.29,227,1983)

 英国:1982年1月以降,1983年7月31日までに14例が報告された。すべて白人男性,6例はKaposi肉腫(KS,特発性多発性出血性肉腫),5例はPneumocystis carinii肺炎(PCP,PC原虫による肺炎),3例はその他の日和見感染(2例はトキソプラスマ症およびサイトメガロウイルス感染,1例は口腔カンジダ症),年齢は20〜45才(中央値39才),最も若い者は血友病患者で米国製Factor[製剤を投与されたことがある。12名は同性愛者,1人は麻薬静注常用者であった。報告は実際より少ない数とみられるが,患者中7名は米国人と接触した事実があり,英国内で患者増加傾向はみられないので,患者発生は米国の流行の反映とみなされる。国内の血友病患者でFactor[治療をうけた約2167名中1名のみの発症ではあるが,輸入はハイリスク者を除外したプラスマからの製品に限るべきである。

(CDR,83/30,3)

 米国:1981年6月〜1983年8月1日に米国およびプエルトリコで1972例のAIDSが報告された(図)。759(38%)が死亡,死亡率は日和見感染がKS単独の2倍を示し,この中ではPCPが最も多い。患者の多くで複数の日和見感染が順次または同時にみられた。71%はホモまたはバイセクシャル群で,KSの95%はこの群に属した。患者の90%以上が20〜49才,47%が30〜39才,129(7%)が女性(男女比14:1)。大部分の報告は大都市で,NY市で44%,サンフランシスコ10%,ロサンゼルス6%,39州およびコロンビア区とプエルトリコから報告されている。

 CDCは報告基準としてAIDSを「既知の免疫不全の基礎要因が認められない細胞性免疫不全症例」としている。AIDSハイリスク群はホモまたはバイセクシャル(患者の71%),麻薬静注常用者(17%),ハイチ生まれ(5%),血友病患者(1%)で,6%は上記群に属さないが,この多くは情報不足のためとみられる。これ以外に原因不明免疫不全の幼児21名が報告されている。大部分はハイリスク群に属する母親から生まれているので,この子らが事実AIDSとすれば,出産中またはその直前直後の母子感染が疑われる。空気感染を示唆する事実はなく,また友人,親族,同僚に患者がないことから日常の接触では感染しないものとみられる。

 医療従事者でハイリスク群に属さないAIDS例は4例報告された。例1はバルチモアの32才の黒人で,1983年1月,原因不明の下腹部不快感を訴え,体重減少,5月PCPと診断,6月2日死亡した。彼は1968年以来病院に勤務し,1982年2月B型肝炎ウイルス検査のための使用済み採血針を手に刺し,免疫グロブリン2mlを筋注されたことがある。また,この6月に当病院で原因不明リンパ腺症の同性愛者が生検を受けた事実があるが,例1の患者との接触は不明,これ以外にこの病院でAIDS患者は報告されていない。

 例2はニュージャージーの32才のアメリカインディアンの女性,1981年PCPと診断され治療により回復したが,1982年大脳トキソプラスマ症で死亡した。彼女は1980年以来病院洗濯場に勤務,この時期AIDS患者が収容されていたが,直接接触はしていない。当人はマリファナ,コカイン,メスカリンを使用していたが静注は否定した。

 例3は34才ジャマイカ生まれの男性,1979年入国後個人雇用看護人をしていた。1982年PCPによりAIDSと診断,治療により回復した。AIDS患者との接触,注射針事故は否定している。

 例4は中年男性。NY市の病院看護助手で1983年PCP発症,治療により治癒した。AIDS入院患者はいたが接触の事実はない。過去に注射針事故および患者にかまれたことがあり,また若年時同性愛経験はあるが近年についてはいずれも否定している。

 上記はいずれもハイリスク群に属することが実証されない例であるが,忘れたとか気付かなかった場合を否定するものではなく,上記4例とも職業上の危険性を説明するものとはみなされない。なお,公衆衛生局のAIDS予防に関する勧告は次のようなものである。(1)AIDS患者または被疑者との性的接触をさける。(2)ハイリスク群に属する者は血液供給者とならないようにする。(3)血液のAIDSスクリーニング法の開発研究を行う。(4)輸血は最小限とし,自己輸血を優先する。(5)血友病患者用の安全な血液製剤開発に努力する。

(CDC,MMWR,32,No.8,No.24,No.27,No.30,1983)










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