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Vol.4 (1983/3[037])

<国内情報>
コアグラーゼ陰性黄色ブドウ球菌による食中毒について


 昭和57年9月,名古屋市でカツ重弁当を原因食品とする食中毒の集団発生があった。原因食および患者糞便を検査した結果,コアグラーゼ陰性の黄色ブドウ球菌が検出された。コアグラーゼ陰性のブドウ球菌による食中毒事例の報告例はほとんどないため,ここに概要を報告する。

 事件の概要

 事件の発生は昭和57年9月26日で,27日に医師より名古屋市天白保健所に届出があった。9月26日の夜,天白区内の24時間営業のS店よりカツ重弁当を購入,摂食した天白区在住の市民6名が約2時間後に嘔気,嘔吐,腹痛,下痢などの食中毒症状を呈した。患者はすべて学生で,同一家族ではなかったが,発症時間が9月26日午後10時から27日午前3時に集中し,同一医師に診察を受けており食中毒と診定され届出があった。

 カツ重弁当は26日午前5時ごろS店に納品され,冷蔵オープンケースに入れられ販売されていたが,ケースに納めきれない弁当は室温(20〜22℃)に保管され,順次販売され次第ケースに補充されていたが,かなりの時間室温で保管されていた弁当があったと推定される。

 患者はS店よりカツ重弁当を26日午後5時ごろから深夜にかけて購入,摂食した者より発生している。当日カツ重弁当は約60個販売されたが,他の罹患届出はなかった。原因食であるカツ重弁当は愛知県下のS製造所で製造されたもので,製造工程等は不明であるが,いずれ県より通知があると思われる。

 症状は嘔吐(10〜20回),水様下痢(3〜10回)が主症状で悪気,嘔気,腹痛,頭痛などであった。

 S店に保存してあったカツ重弁当3件,患者糞便5件が検体として搬入された。

 検査の結果

 カツ重弁当より1.0×108/g,5.0×104/g,2.0×102/gのブドウ球菌と患者5名中4名よりブドウ球菌が検出された。また,愛知県衛生研究所で行った検査では,製造所保存のカツ重弁当より本ブドウ球菌と同様の性状を示すブドウ球菌が分離された。

 検出されたブドウ球菌について凍結乾燥ウサギプラズマおよび自家製ウサギプラズマを用いて試験管法によるコアグラーゼ試験を試みたが,24時間後でも陰性であった。また,10%プラズマ加ブイヨン法でもコアグラーゼ試験は陰性であった。

 本ブドウ球菌はMSEY培地での卵黄反応,ブドウ糖発酵試験,カタラーゼ,DNaseが陽性で,エンテロトキシンAが証明された。他の性状は表1に示す通りであった。

 本事件は嘔吐,下痢を主とする患者の臨床症状,約2時間の潜伏時間,原因食品中のブドウ球菌数,エンテロトキシンAの証明等よりコアグラーゼ陰性の本ブドウ球菌による食中毒と推定した。

 まとめ

 食中毒の原因となるブドウ球菌はコアグラーゼ陽性といわれてきたが,今回コアグラーゼ陰性ブドウ球菌による食中毒事件に遭遇した。本事件はその原因食であるカツ重弁当の取り扱いが不十分だったために起きたと思われる。患者の症状,潜伏時間等より原因菌としてブドウ球菌が疑われた。しかし,分離できた菌はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌のみであった。しかし,本ブドウ球菌はエンテロトキシンの産生,生化学的性状等より,黄色ブドウ球菌と同定された。本事件はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌による食中毒事件と推定した。



名古屋市衛生研究所 森 正司,安形 則雄,土平 一義


表1.





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