HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.3 (1982/8[030])

<国内情報>
ブドウ球菌コアグラーゼ[型による食中毒について


 はじめに

 昭和56年11月,仙台市で弁当を原因食品とする食中毒事件が発生し,検査の結果,製造所の検食,調製材料,および患者糞便より,コアグラーゼ[型ブドウ球菌が検出されたが,コアグラーゼ[型のブドウ球菌による食中毒事件の報告例はほとんどないため,ここに概要を報告する。

 食中毒事件の概要および検査結果

 1)発生月日:昭和56年11月18日

 2)発生場所:宮城県スポーツセンター(仙台市)

 3)摂食者数:41名

 4)患者数:10名

 5)原因食品:山菜いなり弁当

 6)病因物質:ブドウ球菌コアグラーゼ[型

 7)原因施設:S弁当屋

 8)事件概要および検査結果:食中毒事件の通報があったのは,昭和56年11月19日であったが,調査によると,11月18日,宮城県スポーツセンターで行われたスポーツ大会関係者が昼食としてS弁当調製の山菜いなり弁当を摂食したところ,約2時間後に摂食者41名中10名が,腹痛,嘔気,下痢などの食中毒症状を呈したとのことであった。製造所に保存してあった山菜いなり弁当の検食および,山菜いなりの材料と施設ふきとり,患者糞便の計32件が検体として仙台市衛生試験所に持ち込まれ,検査の結果は表1に示す通りであった。また,宮城県衛生研究所で行った検査では,仙台市以外の患者糞便4名中4名から同じコアグラーゼ[型のブドウ球菌が検出されており,本事件はコアグラーゼ[型のブドウ球菌によるものであったと考えられる。

 まとめ

 これまで,食中毒の原因菌となったブドウ球菌のコアグラーゼ型は,U,V,W,Z型が多く,これらの他には,W型によるものがわずかに報告されている程度である。仙台市の例では,昭和53年以降の主なブドウ球菌食中毒事件のコアグラーゼ型は,6事件中Z型4例,V型1例,型別不能株によるもの1例というように,コアグラーゼZ型による事例が多い。しかし,今回の食中毒がコアグラーゼ[型のブドウ球菌を原因菌として発生したことは,今後の食中毒検査においては,コアグラーゼ[型ブドウ球菌も原因菌として見逃してはならないことを示した点で大いに意味深いものであった。



仙台市衛生試験所 増子 光子,永岡 綾子,今野 純夫,角田 行
仙台市東保健所  三浦 寿光
宮城県衛生研究所 湯田 和郎


表1.宮城県スポーツセンター食中毒事件細菌検査結果





前へ 次へ
copyright
IASR