HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.3 (1982/4[026])

<国内情報>
愛媛県で検出された音更因子関連ウイルス粒子について


 Taniguchiらにより報告された音更因子1)とその関連因子は,北海道内では1978年以来,小・中学校や精薄施設,乳児院における急性胃腸炎の集団発生に関連して検出されているが2)3),北海道以外の地区においては,同因子と血清学的に類縁性が確認されたウイルス粒子は検出されていない。我々は,1979年3月,愛媛県今治市の1小学校での急性胃腸炎の集団発生例から音更因子と血清学的に関連するウイルス粒子を検出したので報告する。

 集団発生のあったH小学校は,今治市北西部の海岸に面した地域に位置し,同校の在籍者数は,874名であった。1979年3月2日から3日にかけて,腹痛,嘔吐,下痢,軽度の発熱を訴える者が多発し,3月2日の有症者は190名。欠席者は128名であった。患者は2〜3日内に全て軽快し,3月5日にはほぼ平常に復した。

 採取した6例の患児の糞便について,サル腎細胞によるウイルス分離と,Bishopらの方法4)に準じた電顕による検索を行った。サル腎細胞によるウイルス分離は全例陰性であったが,電顕法によって,6例中5例に直径35−40nmの音更因子に類似の形態を示すウイルス粒子が見出された(表1)。

 このウイルス粒子と音更因子との関連性を明らかにするため,札幌医科大学の浦沢博士に材料を送付し,免疫電顕法(IEM)による同定を依頼した。その結果を表1,2に示す。79−891のウイルス粒子を抗原としたIEMでは,被検患者血清(79−889,890,891)はすべて有意の抗体上昇を示した。また,この79−891抗原は,北海道での音更因子とその関連因子による胃腸炎の集団発生例の患者組血清(78−美唄,78−幌延,79−音更)と有意の交差反応を示した。とくに78−美唄との抗原類似性が強く認められた。

 これらの成績は,音更因子とその関連因子が,北海道地区のみに限局しているものではなく,全国的に広く存在し,ウイルス性胃腸炎の病原として流行していることを推測させるものである。



文献

1)Taniguchi,K. et al.: J. Mlin Cicrobiol. 10,730−736(1979)

2)浦沢正三ら:臨床とウイルス,8,447−451(1980)

3)Kogasaka,R. et al.: J. Med. Virol. 8,187−193(1981)

4)Bishop,R. F. et al.: Lancet,i,149−151(1974)



愛媛県立衛生研究所 大瀬戸 光明


表1.今治市H小学校の急性胃腸炎集団発生例のウイルス検索結果および組血清のIEM結果
表2.79−891のウイルス粒子と音更因子流行例の患者組血清によるIEM結果





前へ 次へ
copyright
IASR