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Vol.2 (1981/6[016])

<国内情報>
高度安全実験室の完成


厚生省の国際伝染病対策の一環として1979年度より国立予防衛生研究所村山分室に建設が進められていた高度安全実験室(Maximum Safety Laboratory, MSL)が1981年3月末完成した。MSLはすでに1979年度に完成している東京都立荏原病院の特殊感染症病棟が国際伝染病患者の収容施設であるのに対応して,国際伝染病の原因ウイルスである外来性ウイルスの検査・研究施設として機能するものである。対象となる外来性ウイルスとしては,Lassa熱,Marburg病,Ebola出血熱,Junin(アルゼンチン出血熱),Machupo(ボリビア出血熱),Crimea-Congo出血熱の各ウイルスが想定されているが,この他に,クラス−4病原体に分類されている,痘瘡ウイルス,ヘルペス−Bウイルスを用いての実験作業もMSL内で行われる。また,最近多くの研究機関で,重篤な実験室内感染をおこしている韓国出血熱(KHF)の動物実験もクラス−4に分類されているので,MSLの動物施設内で行われることとなろう。

MSLはP4レベルの物理的封じ込め施設で,クラス−V安全キャビネット(グローブボックスライン,GBL)による一次隔壁(primary barrier)とGBLを入れる実験室の構造,陰圧空調,空気処理,排水処理,実験室管理運営方式などによる二次隔壁(secondary barrier)の組合せで,研究者と環境に対する安全性を保証するものである。予研MSLは細胞培養を中心とする生物実験を行うためのキャビネット10数個を連結したGBL実験室2ユニットと,動物飼育用キャビネットライン2セットを有する動物実験室1ユニットより成り,GBL実験室と,動物実験室は独立した空調系を有する。GBL実験室より,動物実験質に動物解剖用キャビネットが張り出して,トランスファーボックスの使用により,ウイルス試料,感染動物組織の交通が,両実験室間で可能となっている。その他,同一の建物内に,P3実験室1ユニット,P2実験室1ユニットも配置され,不活化材料による実験作業の促進,細胞培養の供給などに利用されることとなっている。(図・1)

作業の特殊性および安全確保の見地から,P4実験室内での作業は最低3名を以って構成される実験者チームによって行われるとともに,MSLへの人の出入りの管理を行うための事務職員をおき,また複雑な安全施設の運転,維持管理のために専門の技術者を24時間配置しなくてはならないので,目下,完成後のMSLの周辺条件の整備が鋭意進められている。実際に外来性ウイルスの標準株を米国CDCより導入して実験が開始できるのは,これらの条件が整備される数ヵ月後となるであろう。組織的には,腸内ウイルス部(下条寛人部長)の外来性ウイルス室(旧痘瘡ウイルス室,北村敬室長)の所管となっている。

予研と同じ規模のMSLはすでに米国(CDC,Atlantaと陸軍伝染病研究所,Fort Detrick),英国(厚生省応用微生物研究所,Porton Down),南ア連邦(国立ウイルス学研究所,Johannesburg),の4ヵ所にできて活動している。従って,予研MSLは世界で5番目のものということになるが,その地理的位置から言っても,WHOから注目され,他の既存MSLとの国際協力を求められるとともにWHOのReference Center for the Laboratory Safety(アジア,太平洋地区)に指定されることも内定している。

(1981,5.11)

参考:1)北村敬,外来性ウイルス病と高度安全取り扱い施設,ウイルス30(2)87−97,1980

2)大谷明,他編,バイオハザード対策ハンドブック,近代出版,東京

3)岩田和夫編,微生物によるバイオハザードとその対策,ソフトサイエンス社,東京

この図の他に地下に排水管スペース,中二階に空調配管スペース,二階に空調機械,HEPAフィルターユニットを入れた機械室があり,建物外に排水加熱処理ピットを有する。



予研 北村 敬


図1.高度安全実験室1階平面図





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