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Vol.2 (1981/3[013])

<国内情報>
川崎市における百日咳流行の疫学的調査(昭和53年〜55年)


昭和23年に予防接種法が制定され,百日咳のワクチン接種は昭和25年に開始され,昭和33年には百日咳,ジフテリア混合ワクチン(DP)となり,ついで昭和39年からは,百日咳,ジフテリア,破傷風混合ワクチン(DPT)が使用されるようになった。ワクチンの開発,実用化にともない届出患者数は著しく減少した。しかし,昭和49年,50年と相次いでワクチンの副作用による死亡事故が発生し,ワクチン接種が一時中止となった結果,昭和50年頃より全国的に届出患者数(1,084人)が急激に上昇しはじめ,昭和54年には13,094人(13倍)と大巾な増加を示した。

川崎市においても昭和50年1月から51年4月までの間ワクチン接種が中断されており,届出患者数も50年には5名であったのが,53年,54年には300人をこえた。

53,54年に2年間にわたり,本市において行った血清学的検査の結果によると,ワクチン接種群ではワクチン株に対して高い抗体価を示したが,非接種群では新鮮分離株に対して一般に高い抗体価を示した。特に非接種者のなかに抗体上昇が明らかに高い値を示したものが60%強認められ,本市においても散発的な流行がうかがわれた。

また,同時に菌分離も試みたが,検出率は18.1%であった。百日咳菌の分離は困難であるといわれているが,検体採取の時期と条件を十分考慮すれば決して分離そのものは困難ではないと思う。すなわち,急性期の抗生剤使用前の患者の鼻咽腔に耳鼻科用の細い綿棒をできる限り奥の方までていねいに挿入して得られた検体であればBordet-Gengou培地あるいはCharcoal培地で十分検出可能である。

しかし,実際上は初期患者の発見が困難なことや患者が低年令層なため採取方法が悪く菌分離例も少ないようである。ワクチン接種の再開により55年は患者数も減少してきており,本市における菌分離率も約8%と減少した。

百日咳患者或いは菌分離陽性者はほとんど1〜2才以下のワクチン未接種者であることから,副反応の少ない改良ワクチンができ,感染がもっとも高い年少児に早期にワクチン接種ができることが望ましい。



川崎市衛生研究所 中村武雄







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