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Vol.2 (1981/2[012])

<国内情報>
昨年8月長野で発生したポリオ患者の検査結果について


本患者は長野県坂城町に住む8才の男児で,生ポリオワクチン歴はない。8月24日に咽頭痛と38.4℃の発熱があり,解熱,28日には腰部痛を認めた。29日に再度38℃の発熱とともに右下肢の筋力低下がみられ,ポリオの疑いで国立東信病院へ入院した。発熱は31日まで続き,9月1日に解熱し,3日頃より右下肢の弛緩性麻痺が出現した。臨床診断の結果からポリオ監視委員会で定型ポリオと判定された。

患者の8月30日,9月18日,24日の糞便からポリオ1型ウイルスのみを分離した。10月6日,13日の糞便では陰性となった。8月29日と9月18日の血清についてポリオ各型強毒標準株に対する中和抗体価を測定したところ,2,3型は4倍以下または4倍であったが,1型のみは4倍から64倍へと有意上昇を示し,ポリオ1型ウイルス感染が血清反応からも証明された。

分離されたポリオ1型ウイルスのrctマーカーは,9月18日まで(−)であったが,9月24日のウイルスは(+)に近い成績を示した。血清学的型内鑑別試験の結果は,いずれの分離株もnonvaccine-likeと判定された。

以上の成績から本症例は,生ポリオワクチンと抗原性の異なるポリオ1型ウイルスに感染し発病したものと推測される。患者の住んでいる地域での55年春の生ワクチン投与は4月22日で,もしこのときに接種を受けた子供から由来したと仮定すれば発病まで約4ヶ月経過したことになる。この間に抗原性が変化してしまったとは考え難い。強毒野生株の駆逐されたと考えられている本邦で,何故,生ワクチンと抗原性が異なり,しかも定型ポリオの原因となった1型ウイルスが分離されたかは不明である。発展途上国では現在も強毒野生株がはびこっているので,本ウイルスの感染経路について一層の疫学調査が必要である。いずれにしても,昨年1月大阪で発生した生ワクチン未服用の8才女児の場合(参照)と同様に,乳児期に生ポリオワクチン接種を受けていたならば予防できた事故と考えられる。



予研 腸内ウイルス部 原 稔





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