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Vol.2 (1981/1[011])

<国内情報>
最近のGroup B streptococciの動向


GroupBstreptococci(GBS)は,従来から家畜の乳房炎の起因菌として知られていたが,ヒトに対する病原性については,わが国で余り問題視されていなかった。しかし,欧米においては,すでに1958年Nyhanらによって初めてGBSによる新生児髄膜炎が報告されて以来,1960年代にはHoodらが膣内細菌叢と周産期感染症との関係を強調,未熟児にGBS感染症が多いことを報告している。1970年以後急速にGBSによる敗血症や髄膜炎の報告がみられるようになり,新生児のGBS感染症が注目されると同時に,GBSの細菌,血清,疫学的研究に関心が寄せられるようになってきた。特に最近わが国では,各科領域でGBSの検索が積極的に進められている。

1977年から1980年までに全国各医療機関から送られてきたGBSは,県外医療機関分離714株及び県内分離68株の計782株である。分離株の由来は,咽頭粘液271例(34.7%),尿203例(26.0%),膣及び頚管分泌物152例(19.4%),喀痰26例(3.3%),膿(各部位)22例(2.8%),血液13例(1.7%),髄液13例(1.7%),羊水7例(0.8%),鼻粘液4例(0.5%),糞3例(0.4%),尿道分泌物(男性)3例(0.4%),胆汁3例(0.4%),精液2例(0.3%),胃液,腹水,膝関節液,前立腺液,母乳,肛門周囲及び臍各1例ずつ,その他(皮膚,毛など)4例,検体名不明49例(6.3%)であり,広範囲の臨床材料からGBSが分離されている。なかでもGBSが主に分離される臨床材料は,咽頭粘液,尿,膣及び頸管分泌物であり,これらの検体によって分離されたGBSの80%が占められている。

臨床材料から分離されるGBSとGBS感染症との関係:臨床材料から分離されるGBSが,その疾病の起因菌であるためには,何の検体から分離されたかが問題になる。特に,常在細菌叢として多くの微生物を含む臨床材料から分離されるGBSについては,その疾病との意味づけに苦しまざるを得ない。しかし,女性の尿路感染症の多くにGBSが分離されるという事実は,直接原因菌としての役割とは別に,産道感染による新生児GBS髄膜炎及び敗血症をひき起こす可能性についての傍証になり得るものと考えられる。さらに,髄液及び血液の場合になると,その疾病との関連は深くなり,直接起因菌と考えて差し支えなくなる。GBSの臨床材料からの分離は圧倒的に女性が多く,性別に差が認められる。したがってGBS感染症として今後も問題になるのは,小児科及び産婦人科領域であろう。

GBSの生物学的性状試験:GBS84株について,現在用いられている鑑別試験を行った結果,6.5%NaCl抵抗性(+,0%)bill esculin寒天培地発育(+,98.8%),エスクリン分解(+,0%),SF培地発育(+,0%),バシトラシン感受性(+,8.3%),色素産生(+,14.2%),馬尿酸塩分解(+,100%),CAMPtest(+,91.4%),サリシン分解(+,96.4%),ラクトース分解(+,0%)であった。これらの性状試験のうち,β溶血レンサ球菌(A,C及びG群)からGBSを鑑別する性状としては,馬尿酸塩分解試験が最も信頼性が高く,各種B群診断血清による群別試験成績とよく一致する。特に,他のA,C,G群溶血レンサ球菌は,いずれも馬尿酸塩非分解であるため,臨床細菌検査上GBSを生物学的性状試験で鑑別する方法として有効である。

GBSの血清型:1934年LancefieldはGBSを血清学的に3菌型(T,U及びV)に分類したが,1938年にはT型を2菌型に分け4菌型(Ta,Tb,U及びV)とした。その後,1971年H. W. Wilkinsonは,さらにT型を細分し,Ta,Tb,Tcとした。したがって現在C.D.Cなどで広く行われているGBSの菌型分類は,Ia,Ib,Ic,U及びV型の5菌型を基本にしている。しかし,最近わが国ではV型を特にV型とVR型に分け,さらにR型及びX型を追加し8菌型で分類しようとしているのが現状である。現在行っている抗原分析が進めば,血清型の細分化に拍車をかけることになろう。

わが国におけるGBSの菌型分布:臨床材料,分離株782株の菌型分布は,Ta型249株(31.8%),Tb型73株(9.3%),Tc型41株(5.2%),U型30株(3.8%),V型260株(33.2%),VR型23株(2.9%),R型16株(2.0%),型別不能90株(11.5%)であり,Ta型及びV型が現在のところわが国の主分離菌型である。



埼玉県衛生研究所 奥山雄介





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