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Vol.1 (1980/11[009])

<国内情報>
秋田県における腸チフスとパラチフスB


 県内における腸チフスとパラチフスBは昭和40年代に入って激減し,年間数名の発生にとどまっていた。しかし,52年頃から腸チフスが増加傾向を示し,特にファージD2型菌によるものが60〜80%を占めてきた。これを背景として,54年7月中旬〜8月中旬,秋田市内の1地域に7名の患者が相次いで発生した。いずれもD2型菌によるものであった。しかし,多くの疫学調査から割りだされたスーパーの従業員,食品業者,患者家族,患者の立寄り先など,かなり広範囲の保菌検査にもかかわらず,感染源を明らかにすることができなかった。疫学調査に問題があったか否かはわからないが,ともかくこの調査範囲から感染源をみつけることができなかった。そしてまた,それ以上の一般住民の保菌検査も難しいことから,腰を落ち着けて調査する必要があると考え,当該地域を主体にした都市河川と終末処理場を対象にして,D2型菌を逆探知することにしたが,現在まで,他のファージ型の4株が検出されたものの,目的のD2型菌は検出されていない。しかし,少なくともD2型菌の腸チフスが漸増していることは事実であり,また,他型菌も検出されていることから,現在もこの調査を継続し,また調査方法についても種々検討を加えている。

 一方,パラチフスBも近年若干漸増している傾向がみられる。ファージ型は1型が最も多く,上述の調査でも終末処理場から頻回に検出されている。また,ある河川から3a型菌が毎回検出され,その後の追跡調査で感染源の所在をほぼ逆探知できたが,この経験は調査方法の検討に有用な情報を与えてくれた。いずれにせよ,昭和20〜30年代と異なり,住民の保菌検査に限界があるので,今後も,この種の定点観測調査を継続し,両菌の監視を強めていきたいと考えている。

 最後に,全国各地でも同様の調査を進めているところが多いと思うが,是非,そうした人達が一堂に集まって種々検討できる場をつくっていただければありがたい。また,予算権と人事権を有する行政当局がこのような地味な調査を積極的に支援してくれることを強く切望したい。



秋田県衛生科学研究所 森田 盛大,庄司 キク,山脇 徳美,斉藤 志保子





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