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Vol.1 (1980/11[009])

<国内情報>
1980年夏の日本脳炎


 次頁の表は厚生省保健情報課発表の全国の10月中旬現在の屠畜場ブタの日本脳炎抗体保有状況と10月18日迄に同課に通報された日本脳炎患者の集計である。

 まずブタ抗体を指標とした日本脳炎ウイルスの活動を見ると,中部以西の地域ではほとんどの府県でブタ抗体保有率が50%を越えており,2メルカプトエタノール(2−ME)感受性抗体の検出も頻繁でウイルス感染が活発化している。これに対して,北陸,関東,東北,北海道の諸地域では福井,石川,千葉,埼玉,山梨,福島の6県を除き,一般にウイルスの感染は著しく低調である。この傾向は過去10年近く同様に見られているので珍らしいことではない。珍らしいことは,沖縄のブタの抗体保有状況が9月の声を聞いても高くないことで,これは,1973年沖縄県がこの調査に加わってから始めてのことである。

 ブタ抗体保有状況の経過を追って本年の特徴をひろってみよう。ブタの日本脳炎感染はまず,6月沖縄に始まり,7月中に九州に拡大するのが通例のパターンであるが,本年は沖縄,九州での拡大が著しく遅く,全国で初めてブタ抗体保有率が50%を越えたのは,四国の高知,愛媛の2県と近畿の三重,滋賀,兵庫,奈良の4県であった。この時点で京都府では90%を記録していたが,抗体価が低いこと及び2ME感受性抗体が検出されないという事実から,この抗体は同府下で広く実施されている日本脳炎生ワクチンによるブタの人口免疫の結果と推定した。

 九州地区は各県で8月中旬には次々に50%の線を越えたが,熊本,福岡の2県を除き,抗体保有率の上昇速度もやや緩慢であった。前年及び前々年に比べ,九州地区のこのようなブタの日本脳炎感染の遅延を来した主要な原因は,同地方の梅雨期の持続と何回か訪れた豪雨によるコガタアカイエカの発生の停滞によるものと考えられる。佐賀医大の茂木によれば,この期間に降雨量の多い年には日本脳炎の流行は従来大きくはなかったという。

 日本脳炎患者発生の動向は,上の表によれば10月18日迄に全国で真性23名,疑似23名で昨年の半数弱である。昨年,一昨年に引き続き,熊本県内の発生が最も多いが,絶対数としては昨年より大巾に減少している。しかし,日本脳炎感染の拡大速度が遅い年には,ブタ感染が長期にわたり持続し,ウイルス保有蚊の活動期間も長期化するので,10月いっぱい,患者の散発が続くことがあるので注意を要する。なお,より正確な確定患者数は容疑患者監視票の集計後に発表されるはずである。



予研 大谷 明


全国日本脳炎情報





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