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Vol.1 (1980/9[007])

<国内情報>
キャンピロ雑感


 食品衛生行政を担当していた当時,原因不明に終った食中毒の報告書を,厚生省へ提出することぐらい苦々しいことはなかった。そのせいか,昨年の秋に“Campylobacter腸炎”の総説と検査法を読んだときは強く心をひかれると共に,近いうちに,この食中毒と遭遇することもあるのではないかという予感がした。文献をたよりに,器具と試薬を整えて,早速犬の糞便を検査してみたが,何回くりかえしてもSkirrowの培地に,それらしい菌が生育しない。疑問を持ったり,自信をなくしたりの繰り返しだったが,今年の6月になって,資料を犬から豚の糞便に切り替えたとたんに,培地上にめざすコロニーを認め歓声ををあげた。8ヵ月間ねばったことは無駄でなかった。

 その4日後の6月18日に,31名の食中毒が学生寮に発生して,糞便10件のうち7件からこの菌を分離,同定して,予感どおり早くも第1例を経験した。予研の確認もいただいて,ほっとひと息しようとしたら,引き続いて7月5日には再び第2例の,109名の学校食中毒事件と遭遇し,糞便10件のうち6件と雑用水2件のうち1件から,この菌を検出した。この第2例では,患者がでた学校の水道水と雑用水のパイプが直結されていたという,常識では考えられないハプニングもあった。こうして,われわれの仕事が,水道の工事ミス発見,感染経路の推定にも役立って,たいへん嬉しかった。

 今になって考えると,去年の数校1,016名の原因不明集団事件,3年ほど前の1,298名に及んだ僻地校の原因不明食中毒事件など,これらはいずれもこの菌による疑いがあることに気づき感染型の食中毒では,何よりもCampylobacter jejuniに重点を置いて検査する必要があることを痛切に感じた。

 最後に,今後このような重要性が学者間で認められた原因菌があった場合は,本省がタイミングを失することなく,地検の技術者を対象にして,検査法の講習会を開けないものだろうか。原因不明の食中毒を解消するばかりでなく,食中毒の予防にも役立つと思う。



岩手県衛生研究所 金田一 達男





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