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Vol.1 (1980/7[005])

<国内情報>
Yersinia enterocolitica伝播様式の一考察


 Yersinia enterocolitica(以下Y.e)感染症としては,回腸末端炎,虫垂炎,結節性紅斑,敗血症,胃腸炎,髄膜炎等多数の報告がある。しかしながら本菌の感染源,感染経路については一般的に家畜の保菌,それに併う汚染が推察されているが未だ不明の点が多い。本菌による集団発生例においても,Y.eに汚染されたチョコレートミルク,或いは水による感染例として報告されているがその詳細な伝播様式は解明されていない。

 Y.eの生態学的研究の一環として,飼育豚(糞便)とその飼育環境における本菌の動態について調査し,ハエが本菌の伝播に必要な役を演じていることを確認したのでその概況をのべる。

 1978年5月から1979年6月の間に松江市近郊の5養豚農家(A,B,C,D,E)において,豚舎および農家の台所から採取したハエ906検体,豚舎に吊るしたハム633検体からY.eの検出を試みた。人に病原性が確認されているY.e血清型O:3は農家Aの豚舎のハエ3検体,ハム1検体,農家Bの豚舎のハエ1検体,台所のハエ1検体より検出された。検出時期は豚舎のハエ,6,8,9,11月,台所のハエ,11月,ハムは4月である。同時期Y.eO:3は農家A,Bで飼育されている豚の糞便からも(A農家8.7%,B農家0.6%)検出している。更にこれらの分離菌はすべてファージ型8に型別され,豚から由来したものと推定された。

 腸内細菌がハエによっても伝播されることは良く知られている。本調査において豚舎,台所から採取したハエ,豚舎に吊るしたハムからの本菌の検出により,Y.eはハエによっても運ばれることが確認され食品の汚染にハエが関係することを示している。日本におけるY.e感染症は夏に最も多く,又集団食中毒例の多くは春から初夏に発生している。このことはY.eの感染とハエの間に何らかの関係があることを否定し難い。



島根県衛生公害研究所 福島 博





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