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Vol.1 (1980/6[004])

<その他>
ようやくあゆみだした病原微生物検出情報


 疫学検査,防疫情報における検査室の役割が話題になると常に引合いに出るのが,1963年スイス南部マッターホルン北麓の町Zermattの腸チフス流行を離れた英国においてスイスへの旅行者達から分離した菌のphage型別から汚染地を割出した公衆衛生検査サービス組織に対する高い評価がある。

ひるがえって,わが国の状況をみると医療・検査技術の水準は世界的にもトップクラスにあり,各機関が持っている検査情報は各機関の研究・調査報告書などに姿を現わしたものだけでも膨大な数量を持ちながら,情報への整理は,ごく一部を除いて残念ながらなされていない.

それは腸内ウイルス・腸内細菌・腸チフス・インフルエンザ及び溶血性レンサ球菌などについて一部の研究者の個人的に近い努力によって辛うじて維持されてきたものであった。全国的な検査情報の体制の必要性については行政サイドから,また学会で話題に登ることたびたびでありながら長い年月実現できなかった事業で,検査情報の印刷されたこの月報を見て夢のような気がする。

筆者が小規模な学校における感染症情報を千葉県においてはじめてから約10年を経過してやっと行政ルートに乗ることができたという経験からも,この病原微生物検出情報の維持と発展には多くの検査情報提供者と集計・整理・情報還元の担当者とが強固な協力体制を持ち,情報内容の改善と価値観の評価について真剣な検討の継続が望まれる。

まだ4号,現在までの経過内容からの考察はいささか早すぎよう。

しかし1979年の数からCA-16の手足口病,ECHO-9の無菌性髄膜炎,Rotaの嘔吐・下痢,Ad-1・2の冬期の上気道疾患の多発が推定される。

細菌関係で届出患者のうち集団発生の占める割合が1972年頃43〜58%であったのが1977年には25%と減少した赤痢がD群が減少し,1980年1〜3月でB群7にD群1の比とB群の再登場を明確に示していることは注目される。

1979年末に0であったインフルエンザが1980年に入ってH11を主流にして複雑な今年のインフルエンザ流行の姿を浮き彫りにしており,また1〜3月にRotaの下痢が集中,1979年と共に冬期の小児上気道炎に顔を出しているAd-1・2の役割が重要であることを示唆するなど今後の観察に期待される。毎月60,000件前後の検体から,1,000株を越える病原微生物が検出され,毎月の全国の成績と自分の都道府県と比較でき,さらに詳細な情報交換ができたら………「貴方」はどのように活用されるか。

この病原微生物検出情報が本格的に利用され得る資料として本当の価値が生じるのは1年経過してからであり年ごとに重くなるものと思う。

また公開されたこの貴重な資料の活用方法について,あらゆる面から真剣に取組んで価値を高めて戴きたいものである。



杏林大学 芦原 義守





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