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Vol.1 (1980/6[004])

<国内情報>
咽頭結膜熱(プール熱)予防にそなえて


 毎年,水泳シーズンに入ると各地の学童の間で流行する咽頭結膜熱(別名プール熱)は,わが国の場合,主としてアデノウイルス3型によって起こる疾患であります。そして多くは遊泳用プールを介して伝播する事も衆知の通りであります。本格的な水泳シーズンを前に,予防衛生に携わる我々にとってプールの水質基準(主として塩素濃度)とプール水中におけるアデノウイルスの不活化について再認識する事も有意義でありましょう。

 昨年9月,我々は遊泳中の学校プール水の遊離残留塩素並びにアデノウイルスに対する不活化効果について調査研究を行いました。この報告がプール熱予防の一助となれば幸甚であります。

 実験は採取プール水の遊離塩素濃度をオルト・トリジン法によって測定,一方,塩化セシューム密度勾配遠心により精製したアデノウイルス3型および8型を採取プール水に浮遊させウイルスの経時的な不活化パターンを調べてみました。その成績は表に要約されておりますが,先ず第一に,調査した5校のプール水のうちB校およびD校の遊離残留塩素がそれぞれ0.2ppm,0.3ppm,と非常に低値を示した事実であります。昭和53年「厚生省環境衛生局長通知」をもって指示されている「遊泳用プールの水質基準」の項目の中で「遊離残留塩素濃度において0.4ppm以上でなければならない」と指示されておりますが,調査結果は表の通りであり,C校およびE校も基準値ぎりぎりの0.4ppmでありました。

 第二に,採取プール水中におけるアデノウイルスの不活化に関する実験結果であります。1分間反応の成績を表に示しましたが,A校0.9ppmおよびC校0.4ppmのもとではアデノウイルス3型,8型ともに99.9%以上(ほぼ100%)の不活化が認められました。しかしながらB校の0.2ppmでは全く不活化されません。更にアデノウイルス2型を用いて,pHによる影響を遊離塩素0.5ppmのもとで行いましたが,pH7.0〜8.0の範囲においては殆ど不活化効果に差が認められませんでした。

 末尾に「厚生省による遊泳用プールの水質基準」を転載しておきましたけれども,遊泳用プールにおける遊離残留塩素0.4ppm以上1.0ppm以下という指示は我々の実験結果からも,プール熱予防のためには厳守する必要があろうかと思われます。限られた小規模な調査結果ではありますが,全国的にみても恐らく我々の成績に近いプール管理の行われている学校が少なくないと思われます。水質基準に合致した管理が行われるよう一層の努力を関係者に要望したい次第です。なお本稿の詳細については「日本の眼科:第51巻第5号」に掲載されております。

〔付〕遊泳用プールの水質基準について

厚生省環境衛生局長 環企第70号

昭和53年5月25日

(1) 水素イオン濃度は,pH値5.8〜8.6でなければならない。

(2) 濁度は,5度を超えてはならない。

(3) 過マンガン酸カリ消費量は,12ppmを超えてはならない。

(4) 残留塩素は,遊離残留塩素において0.4ppm又は総残留塩素において0.1ppm以上でなければならない。

(5) 大腸菌群は,試料10mlずつ5本について試験したとき,陽性は2本を超えてはならない。

〔注〕

(1) プール水の原水として海水,温泉水等を使用するときは,本基準の一部の適用を除外して差し支えない。

(2) 検査方法は,水道法(昭和32年法律第177号)第4条第2項の規程に基づく水質基準に関する省令(昭和41年厚生省令第11号)に定められている検査方法によるが,残留塩素の検査については,オルト・トリジン法またはそれと同等以上の精度を有する検査方法によることとし,オルト・トリジン法による場合には遊離残留塩素は発色直後の値を,総残留塩素は発色5分後の値を測定するものとする。



予研ウイルス中央検査部 吉井 孝男


表.遊泳中の学校プール水におけるアデノウイルスの不活化(1979年9月)





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