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Vol.1 (1980/3[001])

<国内情報>
1979年から1980年にかけてのインフルエンザの流行について


1977年から1978年にかけての流行はA香港型(H3N2)の流行と同時にAソ連型(H1N1)の流行が発生し,流行の規模も20歳以下の若齢層においては大きな流行がみられた。1978年から1979年の流行ではA香港型株は分離されずにAソ連型株が流行したが流行の規模は小さかった。

1979年から1980年にかけての流行ではAソ連型ウイルスの小流行の中で,1980年1月上旬に福岡でA香港型ウイルスが散発流行から分離された。その後1月中旬から下旬にかけて同型の株が愛知県では山間の小学校の集団発生から分離され熊本県では喘息の児童から,更に愛知県では4〜6歳の保育園の流行から分離された。新潟県では27歳の散発流行,富山県では散発流行から分離された。名古屋市では幼稚園の1つのクラスの集発流行で分離され,高知県では保育園の小児科外来患者から分離された。小学校で集発のみられた島根県では学級閉鎖のあった4年生から分離され,北九州小倉のクラス閉鎖のあった5年生から分離された。2月になり香川では幼稚園児3名と母親の散発例から分離され,更に佐賀,静岡,京都,滋賀,宮崎,東京,鳥取,大阪,和歌山,秋田,愛媛,北海道,神奈川,山形,横浜,岩手県等で相次いで分離されているが流行は小規模である。

 B型ウイルスも1月中旬に横浜市で散発例から3株分離され,同地区の小学校の1クラスの集発から1株分離された。1月下旬に仙台市で小学生1年1組の流行から分離され,千葉県でも分離された。2月の上旬に神奈川,中旬に東京,高知,山形,札幌での流行から分離されているが現在のところ流行拡大の兆しはみられない。

 Aソ連型ウイルスに対する小中学生の抗体保有状況は流行とワクチン接種による追加免疫効果で小学生の低学年を除きかなり高い抗体保有がみとめられる。流行から分離されたH1N1型ウイルスはA/USSR/92/77の抗血清1024に対し128 を示し,連続変異株であるが小中学生の抗体保有が高いので流行拡大の懸念はないと思われる。

A香港型ウイルスに対する小中学生の抗体保有状況もかなり高率であるが,昨年度からA香港型株はワクチン製造株から除外されているので,小学1年生の抗体保有状況は2年生以上の児童,生徒に比較すると低い傾向が認められる。分離されたA香港型株は1977年から1978年にかけて流行したA/東京/1/77 型株と同型のウイルスである。このため抗体保有の低い保育所・幼稚園・小学低学年では或る程度の流行の広がりはみられるが流行の拡大する心配はないと思われるが,ワクチン接種をしていない成人では或る程度の流行があると思われる。

B型ウイルスに対する抗体保有状況は小中学生ではワクチン株のB/神奈川/3/76 株に対するワクチン接種後の抗体価はかなり高いのでワクチン株による流行はないと思われる。現散発的小流行から分離されているB型株はB/神奈川/3/76 株に比較しかなりの抗原構造に差がみられる。即ち昨年の5月,天草での散発流行から分離されてたB/天草/9/79 株はB/神奈川/3/76 の抗血清1024株に対し128 株の抗体価を示しているが今年分離されたB/横浜/1/80 株はB/E4/9/79 株の抗血清1024倍に対し128 倍を示し更に連続変異がみられるので,ワクチンにより上昇した抗体が低下する4〜5月頃,或は1980年の初冬からB型ウイルスの流行が予想される。



武内 安恵








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