The Topic of This Month Vol.33 No.2(No.384)

麻疹 2011年
(Vol. 33 p. 27-29: 2012年2月号)

日本を含むWHO西太平洋地域では2012年を麻疹排除の目標年としており、韓国や小島嶼国では排除を達成しているが、中国、フィリピンなど人口の多くを占める地域ではまだ流行が続いている。WHOヨーロッパ地域では2010年が麻疹排除の目標年であったが、各地で流行が頻発しており、目標年が2015年に延期された(本号3ページ)。

現在、日本における定期予防接種では、原則麻しん風しん混合ワクチンを用いて、第1期(1歳児)、第2期(小学校就学前の1年間)の2回接種を実施している(IASR 27: 85-86, 2006)。さらに2012年までに麻疹排除を達成するため、2008〜2012年度の5年間に限り、第3期(中学1年相当年齢の者)と第4期(高校3年相当年齢の者)の2回目接種を行っている(IASR 29: 189-190, 2008)。

感染症発生動向調査:麻疹は2008年1月から全数報告に変更された(IASR 29: 179-181, 200829: 189-190, 2008)。2011年(第1〜52週)に届出された麻疹患者は434(人口100万対3.58)で(図1)、検査診断例は311(修飾麻疹110を含む)、臨床診断例は123であった(2012年1月5日現在報告数)。

2011年の都道府県別報告数は(図2)、24府県で2010年より減少した。東京(本号5ページ)、神奈川、埼玉、千葉の首都圏4都県で全体の63%を占めた。14県は報告0で、19県が麻疹排除の指標である人口100万対1を下回った。

患者の性別は男231、女203で、年齢は1歳が50と最も多く、0歳25、3歳17、4歳16の順で、年齢群別にみると、0〜4歳は2010年に比べ183→119と大きく減少したが、20〜40代は増加した(図3)。ワクチン接種歴は、未接種126、1回接種141、2回接種26、不明141であった。0歳児は全員未接種、1歳児は未接種20、1回接種29、2〜5歳児は未接種12、1回接種35であった。

2011年1〜12月に麻疹による休校、学年閉鎖、学級閉鎖の報告はなかった。

麻疹ウイルス分離・検出状況:麻疹ウイルスの遺伝子型別は輸入例の鑑別に有用である。日本では2006〜2008年にD5型が国内例から多数検出されたが、2010年5月を最後に検出されていない(本号3ページ)。一方、海外で流行している型の検出が増加しており(表1表2)、2011年にはD9型が2010年から連続して検出され(本号5ページおよびIASR 32:144-145,2011)、D4型が春に急増した(本号5ページおよびIASR 32: 145-146, 2011)。G3型が日本で初めて検出され(IASR 32: 79-80, 2011)、D8型も検出された(IASR 32:197, 2011および本号6ページ)。また、A型(ワクチンタイプ)はワクチン接種歴のある発熱や発疹症患者などからPCRで検出されている(IASR 32: 299-300, 2011)。

ワクチン接種率(本号7ページ):2010年度末の麻疹含有ワクチン(M、MR)の全国接種率(第1期は2010年10月1日現在の1歳児の数、第2〜4期は各期の接種対象年齢の者を母数とする)は第1、2、3、4期それぞれ96%(2009年度は94%)、92%(同92%)、87%(同86%)、79%(同77%)で、第1期は目標の95%以上を初めて達成し、第1〜3期は95%以上を達成する都道府県の数が年々増加している。

感染症流行予測調査(本号9ページ):WHOは麻疹排除には抗体保有率95%以上が必要としている。日本ではゼラチン粒子凝集(PA)法で調査が実施されており、抗体陽性は1:16以上である。2011年度中間報告では初めて2歳以上の全年齢群で抗体陽性率95%以上となったが、1歳児では74%であった。第1期接種対象の12カ月になったら早期の接種が望まれる。一方、麻疹の発症予防には少なくとも1:128以上が必要とされる。0〜1歳、4歳、10〜12歳、16〜17歳と50〜54歳、60歳以上は1:128未満の者が10%を超えており、1:128未満の者には2011および2012年度の第1〜4期接種対象の者が多く含まれていた。

ワクチン接種率向上への取り組み:2008年度から第3、4期を導入した結果、患者数は大きく減少した(図1図3)。麻疹排除を達成するためには、予防接種率向上と維持の努力がさらに必要である。上記の流行予測調査の結果を受けて2011および2012年度の接種対象者の接種率を高める工夫が望まれる。

山形市内の19中学校では予防接種率向上への取り組みが行われており(本号12ページ)、学校・家庭・学校医・市健康課・教育委員会など関係機関との連携強化が重要であることが示されている。接種率100%を達成した島根県の高校では、養護教諭を中心に、保護者、学校の教職員が加わり、全校あげての麻疹対策が行われていた(本号13ページ)。文科省は中学1年生・高校3年生へのリーフレット配布やキャンペーンポスター作成を行うなどの取り組みを行っている(本号14ページ)。

なお、2011年度の第2、3、4期接種対象者は2012年3月31日を過ぎると、公費負担対象外となり、自己負担での接種となる。3月の子ども予防接種週間(2012年3月1日木曜〜3月7日水曜)には、土曜・日曜・夜間に接種を実施する地域医師会があるので、これらの機会を利用し、年度内に接種を受けることが勧められる。翌2012年度は第3、4期接種の最終年度となるので、対象者は本年4月以降早期に接種を受けることが望まれる。

麻疹検査診断の重要性:予防接種が普及するにつれて、臨床症状のみでは診断困難な既接種者の修飾麻疹の割合が増加している。WHOの麻疹排除の評価基準においても、患者の検査診断や疫学リンクの確認が必須である。麻疹疑い例や麻疹IgM抗体弱陽性例には風疹(本号17ページ)、伝染性紅斑、突発性発疹などの患者が含まれており(IASR 31: 265-271, 2010)、麻疹ウイルスを直接検出するPCRやウイルス分離による検査診断が必要である。地方衛生研究所(地研)と国立感染症研究所(感染研)は、PCR検査を主体とした検査診断体制を整備している(本号15ページ)。しかし、2010年同様、2011年の届出患者の3割は臨床診断によっており、検査診断例のうち6割はIgM抗体検査のみで、直接的なウイルス検出は行われていなかった。適切な時期に採取された検体を地研に搬送する体制をまず充実させることが求められる。

今後の対策:2010〜2011年のウイルス検出例はほとんどが輸入例関連あるいは海外流行型株の感染であり、日本は麻疹輸出国から麻疹輸入国になったといえる。2012年に入っても海外由来と思われるD8型やD9型の検出報告が相次いでいる(表1およびhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/measles.html)。海外から麻疹ウイルスを持ち帰らないためには、海外渡航前に予防接種を完了する必要がある。2011年度に限り、修学旅行などで海外渡航する高校2年生への接種も第4期接種として公費負担の対象となっている。さらに予防接種率を高めるとともに、医療機関、保健所と地研・感染研の連携を強化し、麻疹疑い患者全例について確実に検査診断を含む積極的疫学調査を行い、「1例出たらすぐ対応」を徹底して、麻疹ウイルスの感染拡大を防止する必要がある。

また、PCR検査陰性の場合であっても、その結果のみで麻疹を否定できるわけではない。臨床症状、PCRやIgM検査結果、疫学情報を総合的に評価して、麻疹適合症例を確定すべきである。今後、日本が麻疹排除状態になったことを証明するためには、適時の検体採取と遺伝子型別による国内定着株の否定が必要となる。

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