非典型的病原血清型大腸菌(OUT:HNM)が主因と推定された食中毒事例―熊本県
(Vol. 33 p. 8-9: 2012年1月号)

2011年5月29日、熊本県天草市内の飲食店で、eae 遺伝子陽性・bfpA 遺伝子陰性の非典型的病原血清型大腸菌(OUT:HNM)が主因と推定された食中毒に、腸管出血性大腸菌(EHEC)が同時に検出された事例が発生したので報告する。

2011年5月31日、A高校運動部の保護者から管轄保健所へ、運動部の生徒、保護者および高校の職員数人が、5月30日から下痢・腹痛等の体調不良を訴えている旨の連絡があった。保健所による調査の結果、5月29日に天草市内の飲食店でA高校運動部の歓迎会が開催され、出席者の半数が同様の症状を呈していること、および当日法事で同施設を利用したもう一つのグループにも有症者がいることが判明した。

喫食者は高校運動部の歓迎会グル―プ(以下「G1」)86名と法事グループ(以下「G2」)8名の94名で、このうち有症者は48名(51%、G1:43名、G2:5名)であった。主要症状は水様性下痢(83%)、腹痛(69%)、発熱(44%、平均37.2℃)および嘔気(29%)であり、平均潜伏時間は19時間で、16〜18時間をピークとする一峰性の発症曲線を示したことから、単一曝露によるものと推定された(図1)。

保健所から搬入された喫食者便44検体(G1:37検体、G2:7検体)、従業員便10検体、ふきとり5検体および井戸水1検体の合計60検体について、常法により食中毒菌および下痢症ウイルスの検索を行った。なお、病原性大腸菌の有無は、分離平板からのSweep PCR法(VT1/2、LT、ST、invE eae bfpA aggR およびastA 遺伝子検査)で判定した。

検査の結果、eae astA およびVT2遺伝子がそれぞれ複数検出された。これらの病原遺伝子を目安に病原性大腸菌の単離を試みたところ、喫食者便44検体中29検体(65.9%、G1:25検体、G2:4検体)、および従業員便10検体中2検体(20.0%)からeae 遺伝子陽性の大腸菌が分離された(表1)。分離株の血清型は、すべてOUT:HNMであり、生化学性状は、乳糖、白糖およびβ-Glucuronidase陰性であったが、その他の性状は大腸菌の性状と一致した。薬剤感受性試験(使用薬剤:CIP、CTX、CP、NA、TC、KM、SM、ABPCの8剤)では、全株がTCおよびABPCに耐性を示し、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の泳動パターン(図2)もほぼ同様であったことから、感染源は同一である可能性が示唆された。

さらに、喫食者便10検体(22.7%、G1:9検体、G2:1検体)からVT2とastA を保有するEHEC(OUT:H18)も分離された(表1)。こちらも生化学性状、薬剤感受性、PFGEの泳動パターンが一致したため、同一感染源由来であろうと推定された。なお、両方の大腸菌が分離された有症者便は8検体(G1:7検体、G2:1検体)であった(表1)。

その他、ふきとり5検体はSweep PCR法陰性であった。井戸水はeae 遺伝子陽性となったが、菌を単離することはできなかった。なお、厨房内の使用水は市の上水道水と井戸水を各々の受水槽経由で利用しており、当初の聞き取りでは、洗い水1カ所を除いてすべて上水道水であるとのことであったが、その後の調査で厨房内の半数以上で井戸水を利用していたことが明らかとなった。上水道水は遊離残留塩素濃度0.1ppm以上であったが、井戸水への塩素注入はなく、ここ数年は受水槽の清掃等も行われていなかったため、壁面に藻類が発生している状態であった。

今回の事例ではEHECも検出されたが、臨床症状、疫学調査および検査結果等の総合的見地からeae 遺伝子陽性・bfpA 遺伝子陰性の非典型的病原血清型大腸菌による食中毒と判断され、井戸水由来の菌が何らかの原因によって食品中で増殖したためであろうと推定された。しかし、検食が保存されていなかったため検査が行えず、また、喫食状況調査からは原因食品を特定することもできなかった。

熊本県保健環境科学研究所 徳岡英亮 古川真斗 永村哲也 原田誠也
熊本県天草保健所 浴永圭吾 徳永晴樹 東 竜生

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