ふきとり検体のノロウイルス検査法の改良
(Vol. 32 p. 358-359: 2011年12月号)

はじめに
近年ノロウイルス(NoV)による食中毒は調理従事者を介する事例が多くを占めている。調理従事者から食品への汚染経路の解明や施設環境等の汚染状況の把握にはふき取り検査が有用であるが、ふきとり検体からのNoV検出法はまだ十分に確立されていない。そこで、ふきとり検体からの簡便、安価、高感度なNoV検出法の確立を目的として、RNA抽出以前の工程に焦点を当て、ポリエチレングリコール(PEG)沈澱におけるBeef extract(BE)添加の影響および効果的なふき取り方法等について検討した。

方 法
NoV(遺伝子型GII/4)陽性の糞便遠心上清をPBS(−)で希釈したものを添加回収用ウイルス液とした。PEG沈澱、RNA抽出、逆転写反応は野田の方法1) に従い実施し、リアルタイムPCRによるRNA定量値をもとに回収率を算出した。

(1)PEG沈澱時におけるBE添加の影響:最終濃度0、0.5、1および3%のBEを加えたPBS(−)にNoVを添加し、PEG(分子量6,000)を12%に、NaClを1Mになるように加え、溶解後、一夜静置した。冷却遠心して沈渣を回収し、再浮遊させたものを定量に供した。

(2)ふき取り方法の検討:滅菌したステンレス製トレーを100cm2に区画し、各区画に3.1×103、 8.5×104コピーのNoVを塗抹し、風乾させた。ふき取りはPBS(−)で湿らせた綿棒またはカット綿で行った。綿棒については1回または3回ふき取った。カット綿については湿らせたカット綿でふき取った後、乾燥したカット綿で再度ふき取った。綿棒およびカット綿からPBS(−)にNoVを溶出させ、BEを0.5%となるように添加した後、PEG沈澱、定量を行い、回収率を求めた。

結果と考察
(1)PEG沈澱時におけるBE添加の影響:ふきとり検体等の比較的清浄な検体を用いた場合、PEG沈澱による濃縮効率は必ずしも高くない。そこで、回収率の向上を目的としてBE添加による影響を調べた。BEを0、0.5、1および3%添加した場合の回収率は、それぞれ5、40、34および37%であり、BEの添加により回収率が向上した。0.5%BEの回収率が最も高く、BEの濃度を0.5%から1%、3%に高めても、回収率はBE濃度に依存して高くならないため、以後の実験には0.5%を用いることとした。また、BE濃度を低く抑えることは、保存液の細菌汚染・増殖の軽減および低コスト化の面からも有利と考えられる。

(2)ふき取り方法の検討:綿棒で1回、3回あるいはカット綿でふき取りを行った場合の回収率はそれぞれ約6〜17%、8〜38%および24〜38%で、添加したウイルス量にかかわらず、カット綿を用いた場合の回収率が高かった(図1)。このことから、カット綿でのふき取りが有用であることが示された。綿棒では1回よりも3回のふき取りで回収率が向上したことから、ふき取り回数を増やすことも回収率の向上に有効と考えられた。

以上の結果から、カット綿でふき取り、BEを0.5%になるように添加してPEG沈澱を行うことで、通常実施されている綿棒でのふき取りとPEG沈澱法による方法と比較して高感度なふき取り検査が実施できると考えられた。図2に我々が実施しているふき取り方法を示した。操作的にも簡便であり、またコストも安価なので、現場でのふき取り検査に適応できるものと考えられる。

 参考文献
1)野田衛、表面汚染が推定される食品からのノロウイルス検出法に関する検討(2)、厚生労働科学研究費補助金(食品の安心・安全確保推進研究事業)平成20年度分担研究報告書、 43-51, 2009
岡山県環境保健センター
溝口嘉範 木田浩司 葛谷光隆 濱野雅子 藤井理津志 岸本壽男
岡山市保健所 安原広己
国立医薬品食品衛生研究所 上間 匡 野田 衛

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