南半球において2012インフルエンザシーズンに推奨されるワクチン株−WHO
(Vol. 32 p. 341-342: 2011年11月号)

WHOは北半球と南半球におけるインフルエンザワクチンに推奨される株について、それぞれ毎年2月と9月に技術的な協議を行っている。このレポートは南半球における次のインフルエンザシーズン(2012年)のワクチンに関する推奨である。北半球における2012/13インフルエンザシーズンで使用されるワクチンに関しては2012年2月に行う予定である。

2011年2〜9月におけるインフルエンザの活動性:アフリカ、アメリカ、アジア、ヨーロッパ、オセアニアからインフルエンザの活動性に関する報告があった。前年までと比較して、この期間の活動性は概して低いか中程度であり、A(H1N1)pdm09亜型ウイルス、A(H3N2)亜型ウイルス、B型ウイルスによる混合流行であった。

2009年のパンデミック以前に流行した従来の季節性A(H1N1)亜型ウイルスは検出されなかった。A(H1N1)pdm09は、2〜3月にアジア、北アフリカ、北アメリカ、ヨーロッパで報告された広範囲なアウトブレイク等、世界中の多くの地域で優位であった。A(H3N2)の活動性は多くの国で報告された。ラテンアメリカの多くの国においては優位であり、6〜8月に地域発生を引き起こした。B型の活動性は、2〜3月に北半球の多くの国で報告された。

鳥由来A(H5N1)・A(H9N2)、豚由来A(H3N2)亜型ウイルスによるインフルエンザ:2011年2月16日〜9月19日に、鳥由来A(H5N1)による人症例は、バングラデシュ、カンボジア、エジプト、インドネシアから45例(死亡24例含む)が報告された〔2003年12月以降では15カ国から合計564例(死亡330例含む)の報告〕。現在まで、継続した人−人感染はみられていない。鳥由来A(H9N2)はバングラデシュから1例、豚由来A(H3N2)はアメリカから4例のヒト症例が報告された。

最近分離されたウイルスの抗原性および遺伝子学的性状:
A(H1N1)亜型ウイルス:2011年2〜8月に検出されたA(H1N1)は、すべてA(H1N1)pdm09であり、従来の季節性A(H1N1)は検出されなかった。免疫フェレット血清を用いたHI試験では、A(H1N1)pdm09の抗原性は均一であり、A/California/7/2009に類似していた。また、A(H1N1)pdm09のHA遺伝子配列の解析では、抗原的には区別できない少なくとも7つのグループに分けられた。少数のウイルスは免疫フェレット血清によるHI反応が低下しており、その多くはHAの153-157番目のアミノ酸の置換が認められた。

A(H3N2)亜型ウイルス:2011年2〜8月に検出されたA(H3N2)の多くは、抗原的にワクチン株のA/Perth/16/2009に類似していた。最近のウイルス株のHA遺伝子は、A/Perth/16/2009とA/Victoria/208/2009の2つのクレードに分けられるが、大多数は後者のクレードに含まれていた。また、両クレードはサブグループ(A/Perth/16/2009:2グループ、A/Victoria/208/2009:少なくとも4グループ)に分けられるが、すべてのサブグループは抗原的にA/Perth/16/2009に類似していた。

B型ウイルス:B型には2つの系統(B/Victoria/2/87系統、B/Yamagata/16/88系統)があり、世界的にはB/Victoria/2/87系統が優位であった。しかし、中国北部において2011年2〜5月にはB/Yamagata/16/88系統が優位であった。免疫フェレット血清を用いたHI試験において、B/Victoria/2/87系統の多くは抗原的にワクチン株のB/Brisbane/60/2008に類似していたが、数カ国における少数のウイルスは抗原的・遺伝子的にワクチン株とは異なっていた。一方、最近検出されたB/Yamagata/16/88系統は、抗原的・遺伝子的に以前のワクチン株であるB/Florida/4/2006とは区別でき、B/Hubei-Wujiagang/158/2009、B/Wisconsin/1/2010、B/Sichuan-Anyue/139/2011に類似していた。

抗インフルエンザウイルス薬に対する耐性
ノイラミニダーゼ(NA)阻害剤薬:A(H1N1)pdm09の大多数はオセルタミビルに感受性であった。オセルタミビル耐性を示すウイルスが少数で検出されたが、その多くは予防投薬あるいは治療のための薬の使用に関連があった。しかし、日本、英国、米国や、特にオーストラリアの集団においては、オセルタミビル使用との関連がみられない耐性ウイルスの割合が増加している。耐性ウイルスはすべてNAの275番目のアミノ酸がヒスチジンからチロシンに置換(H275Y)していた。ザナミビルに対しては依然感受性であった。A(H3N2)においては、オセルタミビルあるいはザナミビルに対して耐性を示した報告はなかった。B型は、多くがNA阻害薬に対して感受性であったが、ごく少数で感受性の低下が認められた。

M2阻害薬:A(H1N1)pdm09およびA(H3N2)のM遺伝子配列の解析により、アマンタジンやリマンタジンといったM2阻害剤への耐性に関与することが知られているM2蛋白のアミノ酸置換(S31N:31番目のアミノ酸がセリンからアスパラギンに置換)が認められた。

不活化インフルエンザワクチンに関する調査:最近の分離株に対する抗体保有状況については、季節性の3価不活化ワクチン [A/California/7/2009(H1N1)pdm09類似株、A/Perth/16/2009(H3N2)類似株、B/Brisbane/60/2008類似株を含む] の接種を受けた小児、成人、高齢者の血清を用いて、HI試験によって測定された。また、A(H3N2)については中和試験でも測定された。

A/California/7/2009類似株の抗原を含むワクチンによって誘導されたHI抗体価(幾何平均抗体価)は、ワクチン株と最近のA(H1N1)pdm09株の多くで同程度であった。

A/Perth/16/2009類似株の抗原を含むワクチンによって誘導されたHI抗体価(幾何平均抗体価)は、ワクチン株と最近のA(H3N2)株の多くで同程度であり、中和試験でも同様の結果であった。

B/Brisbane/60/2008類似株の抗原を含むワクチンによって誘導されたHI抗体価(幾何平均抗体価)は、ワクチン株と最近のB/Victoria/2/87系統株の多くで同程度であった。一方、最近のB/Yamagata/16/88系統株に対するHI抗体価(幾何平均抗体価)はB/Victoria/2/87系統のウイルス株と比較して低かった。

南半球において2012インフルエンザシーズンに推奨されるワクチン株
 A/California/7/2009(H1N1)pdm09類似株
 A/Perth/16/2009(H3N2)類似株
 B/Brisbane/60/2008類似株

(WHO, WER, 86, No.42, 457-468, 2011)

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