The Topic of This Month Vol.32 No.10(No.380)

HIV/AIDS 2010年
(Vol. 32 p. 282-283: 2011年10月号)

わが国のエイズ発生動向調査は1984年に開始され、1989年〜1999年3月はエイズ予防法、1999年4月からは感染症法に基づき、診断した医師の全数届出が義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。本特集のHIV感染者数*とAIDS患者数**は厚生労働省エイズ動向委員会による平成22年エイズ発生動向年報(2011年3月18日確定)に基づく(同年年報は厚生労働省疾病対策課より公表されている、http://api-net.jfap.or.jp/status/2010/10nenpo/nenpo_menu.htm)。

1.1985〜2010年のHIV/AIDS報告数の推移:2010年に新たに報告されたHIV感染者は1,075(男性1,015、女性60)で、2008年(1,126)、2007年(1,082)に次ぐ過去3位の報告数であった。AIDS患者は469(男性450、女性19)で、過去最多であった(図1)。1985〜2010年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)はHIV感染者12,648(男性10,570、女性2,078)、AIDS患者5,799(男性5,164、女性635)で、2010年10月1日人口10万対累積HIV感染者は9.877、同AIDS患者は4.528となった。また、2010年に厚生労働省疾病対策課に病変報告として報告された死亡例は、全数を捕捉しない任意報告であるが11(日本国籍男性10、外国国籍男性1)であった。なおこの他に、「血液凝固異常症全国調査」(2010年5月31日現在)において血液凝固因子製剤によるHIV感染者が累計で1,439(2008〜2009年と同数:生存中のAIDS患者168および死亡者659を含む)報告されている。

国籍・性別:2010年は日本国籍男性がHIV感染者956(2009年894)、AIDS患者421(2009年386)と、ともに増加し、それぞれ全体の89%、90%を占めた(図2)。日本国籍女性、外国国籍男性・女性のHIV感染者の報告数はそれぞれ41、59、19で、AIDS患者は15、29、4であった。

感染経路・年齢群別:日本国籍男性では、HIV感染者・AIDS患者ともに同性間性的接触(両性間性的接触を含む)によるものが多い(図3)。2010年の日本国籍男性HIV感染者のうち、同性間性的接触によるものは75%(713/956)を占め、30代(281)、20代(236)、40代(120)が多く(参考図)、増加傾向が認められる。また、日本国籍男性AIDS患者のうち、同性間性的接触によるものは53%(224/421)を占め、30代(91)、40代(59)で多く、増加傾向が認められる。日本国籍女性の感染経路はほとんどが異性間性的接触である。静脈薬物使用によるものはHIV感染者、AIDS患者合計7(日本国籍者4、外国国籍者3)(2009年8)で、これ以外に「その他」として静脈薬物使用と性的接触の両方によるものが12(日本国籍者10、外国国籍者2)(2009年5)あった。母子感染の報告は2007〜2009年にはなかったが、2010年はHIV感染児3が報告された。

推定感染地域:日本国籍者では男女ともに国内での感染が多く、2010年はHIV感染者の88%(男性89%、女性71%)、AIDS患者の79%(男性80%、女性73%)を占めた。また、外国国籍男性のHIV感染者でも2001年以降国内感染が国外感染を上回っており、2010年は56%(国内33、海外7、不明19)を占めた。

報告地(医師により届出のあった地):報告地の都道府県別では、HIV感染者、AIDS患者ともに東京、大阪、愛知が上位3位であり(表1)、これらを中心とするブロックに加え、中国・四国、九州など他の地方への流行の拡がりもみられている。

2.献血者のHIV抗体陽性率:2010年は献血件数5,318,586中86(男性83、女性3)の陽性者がみられ、献血10万件当たり1.617(男性2.298、女性0.176)と、2年連続して低下した(図4)。初回献血者の陽性者は10万件当たり5〜6と高い(本号9ページ)。

3.自治体が実施したHIV抗体検査と相談:自治体が実施する保健所等におけるHIV抗体検査実施件数は、2010年は130,930(2009年150,252)と、2年連続して減少した(図5)が、陽性件数は473(2009年442)、陽性率は0.36%(2009年0.29%)と増加した。このうち保健所での検査陽性率は0.27%(277/103,007)であるのに対し、保健所以外のより利便性の高い場所での検査陽性率は0.70%(196/27,923)と高かった。また、2010年は相談件数も164,264件(2009年193,271件)と、2年連続で減少した。

まとめ:わが国ではHIV感染者、AIDS患者の報告数はいずれも増加傾向が続いている。予防や早期発見に関する啓発に努め、早期受検/受診・治療を促進し(本号11ページ)、感染拡大の抑制を図ることが緊急重要課題である。各自治体においては、各地域の感染者・患者発生の特徴を把握し、特に対策が重要な男性同性愛者、青少年、性風俗産業従事者およびその利用者、増加が著しい20〜40代男性などが受けやすい時間帯や場所での検査・相談の提供、受診しやすい環境整備における工夫が引き続き望まれる。対策を講ずる際には、必要な関係者(教育関係者、医療関係者、企業、NGO 等)と協力することも必要である。

2010年には、過去3年間報告がなかった母子感染例が3例報告された。2010年4月から公的補助の対象に組み入れられた妊婦健診におけるHIVスクリーニング検査をはじめ、HIV感染者およびAIDS患者妊婦の妊娠・出産管理、出生児への抗HIV薬予防投与等による、HIV母子感染予防対策を徹底する必要がある。

*HIV感染者報告:HIVに感染後AIDS指標疾患を発症していないもの(AIDS未発症者)の報告。病院・保健所での血液検査や妊婦検診など、何らかの機会に感染が判明し、報告されたもの。

**AIDS患者報告:届出時にAIDS指標疾患を発症しているもの(AIDS発症者)の報告。既にHIV感染者として報告されている症例が指標疾患を発症した場合は感染症法の法定報告はされず、「エイズ病原体感染者報告票(病状に変化を生じた事項に関する報告)」により、死亡報告とともに任意報告として、自治体を通じ厚生労働省において収集されている。

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