呼吸器感染症検体中の多項目呼吸器ウイルス検出の試み―大阪市
(Vol. 32 p. 202-203: 2011年7月号)

呼吸器感染症を引き起こすウイルスは多く報告されている。培養細胞を用いたウイルス分離法では効率よく検出されないウイルスも報告されていることから、大阪市では、RT-PCR法を中心に遺伝子検出可能なウイルスを増やしてきた(IASR 29: 281-282, 2008)。しかしながら、呼吸器感染症における呼吸器ウイルスの包括的な検出・解析を試みる中で個別に検出を行うことは、時間・労力面から困難と考えられた。そこで、遺伝子検出法効率化を目的とし、2009年より研究的な取り組みとして、multiplex real-time PCR法を中心とした呼吸器感染症検体中の多項目呼吸器ウイルス検出を試みている。2009年10月〜2010年9月までの期間に採取された主に乳幼児の呼吸器感染症由来427検体(インフルエンザ診断例は除外)について、アデノウイルス、インフルエンザウイルス[A、A(H1N1)2009、B、C]、エンテロウイルス、ヒトコロナウイルス(OC43、229E、NL63、HKU1)、ヒトパラインフルエンザウイルス(1〜4型)、ヒトボカウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトライノウイルス、RSウイルスの18ウイルスについて遺伝子検出を試みた(エンテロウイルス、ヒトライノウイルスはRT-PCR法で、それ以外のウイルスはmultiplex real-time PCR 法で検出)。その結果、361検体(85%)から596のウイルスを検出した。ウイルス陽性検体のうち、1種ウイルス陽性が55%、2種以上の複数ウイルス陽性が45%であった。

月別ウイルス検出数およびウイルス陽性検体に占める複数ウイルス陽性検体の割合()、各ウイルスの月別検出数(表1)、月別検出率(月別検出ウイルス数を月別検体数で除した値)(表2)を示した。検体数は月により変動するため、検出率を指標に解析した結果、春季(3〜5月)に高い検出率を示すウイルスが多いことが示唆された(ヒトパラインフルエンザウイルス3型、ヒトボカウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトライノウイルス)。また、ウイルス陽性検体に占める複数ウイルス陽性検体の割合も春季に高い割合を示すことから、春季は、異なるウイルスへの感染機会が多いことが示唆され、症状の遷延化、複雑な症状を呈する症例に関与する可能性が考えられた。以上の結果、冬季のみならず春季についても呼吸器感染症に注意が必要な時期であると考えられた。春季は、保育所、幼稚園、小学校など新しい社会生活が始まる時期であり、特に乳幼児においては、ウイルスへの初感染の機会が高くなることが、春季の呼吸器ウイルス検出数増加を反映しているのかもしれない。本調査において、冬季の呼吸器ウイルス検出数が少ないことは、当時、急増していたインフルエンザウイルスA(H1N1)2009の影響を除外するため、インフルエンザ診断例を除外したことによる。

遺伝子検出の効率化を試みることで、多項目の呼吸器ウイルス検出が可能である。しかしながら、遺伝子検査は高感度であるために、必ずしも検出ウイルスが実際の症状と直接関連するとは限らない。また、陰性の証明はできないこと、擬陽性の可能性があること、そして、ウイルスの性状解析には、ウイルスを分離することが欠かせないことから、他の検査方法の結果を含めた総合的な解析が重要である。今回、呼吸器感染症検体について、多項目呼吸器ウイルス検出を試みることで、ウイルス陽性例において、複数ウイルス陽性例が高い割合を示すことが示唆された。今後も継続した調査を行うとともに、呼吸器ウイルス共検出の意義について解析を進める予定である。

本研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金(研究課題番号:21790600)の助成を受けて実施された。

最後に、日頃より大阪市感染症発生動向調査事業にご協力頂いております医療機関の皆様に深謝いたします。

大阪市立環境科学研究所
改田 厚 久保英幸 関口純一朗 入谷展弘 後藤 薫 長谷 篤

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