クロアチアにおけるデング熱の流行
(Vol. 32 p. 165-167: 2011年6月号)

デング熱・出血熱の流行地域はアジア、中南米、オセアニア、カリブ海、アフリカの熱帯・亜熱帯地域と広範囲で、年間約1億の患者数のうち、約25万人がデング出血熱を発症し、約2.5万人が死亡していると推測されている。ヨーロッパ圏内のデング熱発生は存在しないとされており、デング熱の流行・感染リスクのない地域として認められていた。1925〜1928年までのギリシャにおけるデング熱大流行が最後のヨーロッパ圏内のデング熱流行発生であった。

デングウイルスの主な媒介蚊であるネッタイシマカは、1920年代におけるギリシャのデング熱流行のウイルス媒介蚊とされたが、近年のヨーロッパ圏内ではネッタイシマカは捕獲されていない。しかし、1970年代における再生タイヤ輸入によりデングウイルス媒介能力を有するヒトスジシマカがヨーロッパ諸国に侵入し、生息範囲を広げた(図1)。クロアチアでは2004年に初めて国内でヒトスジシマカが確認され、その2年後に分布域が海岸地域に拡大した1) 。

クロアチアにおける2007〜2010年までの輸入症例が6症例であることと同時に、ヨーロッパ圏内に流行が確認されなかったため、渡航歴の無い住民に対するデング熱のサーベイランスは実施されていなかった。しかし、2010年にクロアチアへ渡航したドイツ人が帰国後にデング熱を発症したことから2) 、クロアチアではデング熱の国内サーベイランスが実施された。

症例1:72歳、男性(クロアチアへのドイツ人渡航者)
渡航歴:2010年8月1〜15日まで家族7人とともにクロアチアのペリェシャツ(Pelješac)半島に滞在した。
現病歴:2010年8月16日にドイツに帰国し、高熱(39℃)、悪寒、眼窩痛を発症した。数日後に症状は一度軽快したが、8月21日に高熱(39℃)、筋肉痛、倦怠感、呼吸困難が出現した。発症8日目に血小板減少(9.7万個/µl)が認められた。発症2週間後に軽快治癒した。8月23日に採取された血清におけるデングウイルス遺伝子検査および抗デングウイルスIgG抗体検査が陰性であり、デングウイルス非構造タンパク(NS1)抗原検査および抗デングウイルスIgM抗体検査が陽性であった。8月30日に採取された血清における抗デングウイルスIgMおよびIgG抗体検査が陽性であった。

症例2:50歳代、女性
渡航歴:クロアチア、ペリェシャツ半島在住。住居近隣以外の移動歴無し。
現病歴:2010年10月22日に高熱(39℃)、発疹、頭痛、筋・関節痛を発症し、入院した。発症6日目の血清におけるデングウイルス遺伝子検査および抗デングウイルスIgG抗体の検査が陰性であり、抗デングウイルスIgM抗体の検査が陽性であった。発症19日目の血清で抗デングウイルスIgMおよびIgG抗体が陽性であった。

ヨーロッパにおけるデングウイルス感染は、フランスの国内感染2例に続いてクロアチアにおいても国内感染が確認された3,4) 。いずれの患者においてもウイルス遺伝子が確認されていなかったが、抗デングウイルス抗体上昇が認められた。また症例2の近隣に在住する9人においても抗デングウイルス抗体が認められた(表1)。同地域および近隣地域で捕獲した蚊(表2)からはデングウイルス遺伝子が検出されなかった。抗デングウイルス抗体が陽性と認められた症例2の近隣住民9人のうち4人が2010年8〜9月に発熱し、近医を受診した。しかし、同時期にエンテロウイルスも流行していたため、デングウイルス症例として考慮されなかった1) 。このため、デングウイルスの媒介蚊のネッタイシマカおよびヒトスジシマカが確認された地域においてデング熱発生リスクが無いとされた地域、および国内発生が認められなかった地域では、臨床症状が疑わしい場合、デング熱を考慮することが望ましく、感染拡大防止につながると考えられる。

 参考文献
1) Gjenero-Margan I, et al ., Eurosurveill 16(9): pii=19805, 2011
2) Schmidt-Chanasit J, et al ., Eurosurveill 15(40): pii=19677, 2010
3) La Ruche G, et al ., Eurosurveill 15(39): pii=19676, 2010
4) Grandadam M, et al ., Emerg Infect Dis 17(5): 910-913, 2011
5) WHO, http://whqlibdoc.who.int/publications/2009/9789241547871_eng.pdf, 2009

国立感染症研究所ウイルス第一部 モイ・メンリン

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る