東京都における麻しんウイルスの検出状況について
(Vol. 32 p. 145-146: 2011年5月号)

東京都健康安全研究センターでは、2010年7月から「麻しんの病原体レファレンス事業」として、届出のあった麻しん患者を対象に積極的に遺伝子検査を開始した。その後、同年12月からは感染症法に基づく「積極的疫学調査」として検査を行っている。

麻しんウイルスの遺伝子検査は、リアルタイムPCR法と国立感染症研究所の麻しん診断マニュアル(第二版)の「N遺伝子PCR法およびダイレクトシークエンス法」による遺伝子型別検査を併用して行っている。また、2011年4月15日までは、類症鑑別として、ヒトパルボウイルスB19およびヒトヘルペスウイルスの遺伝子検査をNested-PCR法により併せて実施した。

2010年7月1日〜2011年4月21日までに、病原体レファレンス事業と積極的疫学調査合わせて70件(93検体)の検査を行った(図1)。2010年に実施した19件中麻しんウイルス遺伝子陽性は1件のみであった。この1件は、麻しんワクチン接種後10日目の患者で、検出されたウイルスの遺伝子型はワクチン株であるA型であった。一方、麻しんウイルスが陰性であった18件中4件(22.2%)からはヒトパルボウイルスB19遺伝子が検出された。

2011年1月〜4月21日までに実施した51件では、24件(47.1%)が麻しんウイルス遺伝子陽性であった。検出された麻しんウイルスの遺伝子型は、D4型16件およびD9型8件であった。1月から検出され始めたD4型はヨーロッパからの観光客やビジネスマン、D9型は東南アジアからの旅行者ならびに帰国者等からの検出であった。これらの遺伝子型は、過去に都内発生例からの検出がないこと、渡航先等での麻しん流行株の遺伝子型と一致していること等から輸入例と推定された。最近、都内でも、これらの遺伝子型が海外渡航歴のない患者から検出される例が増加しており、感染拡大が危惧されている。流行状況の把握には、発症者の把握と併せて、迅速な遺伝子解析を主体とした検査が重要である。

東京都健康安全研究センター微生物部ウイルス研究科
長谷川道弥 田部井由紀子 岡崎輝江 細矢博子 岩崎則子 菅野このみ 林 志直

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