眼疾患、角結膜炎の患者からのアデノウイルス56型の検出―福岡県
(Vol. 32 p. 148: 2011年5月号)

2011年3月、福岡県筑紫野市において流行性角結膜炎を呈する患者1名からアデノウイルス56型(HAdV56)を検出したのでその概要を報告する。

眼科定点医療機関において流行性角結膜炎と診断された患者(38歳、男性)1名から採取された眼結膜ぬぐい液1検体が搬入された。この検体について、アデノウイルスのHexon領域(AdTu4、AdTu7、AdUA、AdUSプライマー)1) およびエンテロウイルス(EVP4、OL68-1プライマー)の遺伝子検査を実施した。その結果、アデノウイルスについて、956bp付近に特異的増幅産物を認めた。ダイレクトシークエンスにより塩基配列(875bp)を決定し、BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)による相同性検索を行った結果、HAdV56(アクセッション番号:HM770721)と100%塩基配列が一致したことから、HAdV56陽性と判定した。Vero、FL、HEp-2、RD-18SおよびLLC-MK2細胞を用いたウイルス分離検査は陰性であった。

HAdV56は、2011年日本において眼疾患の患者から発見され、眼感染症に関与すること、HAdV15/H9とHAdV29/H9の型間組換え株であることが明らかにされた2) 。しかし、これまでに、Kanekoらによる11例(札幌、福島、神奈川、岐阜、愛媛、熊本、福岡で2008〜2009年に検出)しか報告されておらず2) 、新規アデノウイルスであることから、日本国内での正式な検出数は把握されていない。今回、福岡県で新たに1例検出されたことから、夏場に流行のピークが見られる流行性角結膜炎の原因ウイルスとして流行している可能性があり、検出数の増加が今後予想される。流行性角結膜炎の原因となるアデノウイルスD種は、成人の感染例が多いことで知られている。手指衛生を徹底して、汚染された手による眼への感染を防ぐべきである。多数の成人が密集して生活しているようなところでは、特に手指の衛生等の注意が必要である。

 参考文献
1) Saitoh-Inagawa W, et al ., J Clin Microbiol 34: 2113-2116, 1996
2) Kaneko H, et al . , J Clin Microbiol 49: 484-490, 2011

福岡県保健環境研究所 吉冨秀亮 前田詠里子 石橋哲也 世良暢之
鬼木眼科医院 鬼木隆夫
国立感染症研究所感染症情報センター 花岡 希 岡部信彦 藤本嗣人

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