腸管出血性大腸菌O103による保育園での集団感染事例―佐賀県
(Vol. 32 p. 134-135: 2011年5月号)

2010年8月2日県内医療機関より腸管出血性大腸菌O103(VT1産生)(以下EHEC O103)の発生届が管轄保健福祉事務所に提出された。

患者は1歳女児で7月21日から水様性便(1〜2回/日)が続いていたが、他に症状が無く、食欲・機嫌ともによかったので特に受診等せず、保育園にも通園していた。7月28日朝、血便が見られたため、同日医療機関を受診した。検便の結果EHEC O103(VT1)が検出された。

管轄保健福祉事務所が患者の家族と通園する保育園(園児111名、職員19名)に疫学調査を行うとともに、52名(患者の母、保育園職員19名、同じ組の園児32名)の検便を実施した。

その結果、患者の母(無症状)と園児6名(無症状)からEHEC O103(VT1)を検出した。陽性園児の家族まで対象を広げ検便を実施したところ、新たに2名(無症状)の感染が確認された。1名は同園の4歳児園児であったためにさらに検便対象者を園児全員まで拡大した。3歳児園児1名(無症状)の感染が確認され、感染者は合計10名(すべて無症状病原菌保有者、初発患者を除く)となった()。

総検査数は便169検体で、直接培養法(DHL、クロモカルト)と増菌培養法[TSB(トリプトソイブイヨン)で6時間培養し、DHLとクロモカルトに塗抹培養]を行い、培地上のコロニーからPCRでVT遺伝子の検出を行った。VT遺伝子が確認されたコロニーについては確認培地で大腸菌と同定後、血清型検査によりO103:H2と決定した。EHEC O103:H2(VT1)が確定した分離菌株10株のパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)(制限酵素Xba I)による遺伝子解析の結果はすべて一致し、同一由来の菌であると考えられた()。

感染原因、感染経路は特定できなかったが、初発患者は発症後も登園しており、11名の感染者のうち7名が3歳未満児であったことから、おむつ等を介しての人から人への感染が否定できない。また、調査で園児は健康に問題がない限り毎日プール遊びをしていた。プールの水は保育園の方針で消毒薬は使用していなかった。クラスが交代するたびに水は入れ替えられていたものの、使用後は消毒液による消毒を行わず、水洗い後天日干しのみであったことから、十分な消毒効果は得られなかったと考えられ、他クラスにまで感染が拡大した可能性の一つではないかと推測された。

今後の感染予防の徹底のために、職員を対象に参考マニュアルの配布および手洗い検査器を活用し、具体的に手洗い等の指導を行った。

佐賀県伊万里保健福祉事務所
佐賀県衛生薬業センター

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