祭り会場で発生した腸管出血性大腸菌O157による食中毒事例―栃木県
(Vol. 32 p. 130-131: 2011年5月号)

2010年8月、県内の祭り会場で販売された食品を原因食品、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157を病因物質とする食中毒が発生した。その概要について報告する。

8月13日、A市内の医療機関から男児1名のEHEC感染症の発生届があり、翌14日、同医療機関から8名の同感染症の発生届があった。これらの患者は、いずれも8月7日にA市内で開催された祭りに参加していることが判明した。

保健所による調査は、祭りで販売されていた食品を喫食し、医療機関でEHEC O157感染症と診断された患者とその家族、33名を対象に実施された。調査の結果、患者らに共通する食品は、8月7日の祭りに出店した店舗で販売された食品であった。調査対象者は、全員腹痛、下痢などの急性胃腸炎様症状を呈していた。店舗は祭り終了直後にすべて撤収され、食品残品の検査、調理器具等のふきとり検査等、実施できなかった。

この祭りは、実行委員会(A市事務局)が主催・主管して、8月7日A市公園で開催され、出店は、商工会関係者店舗8、臨時出店約40であった。A市街商協同組合代表者が臨時出店の取りまとめをしたが、祭り当日の到着順に出店場所を決定するなど計画性を欠き、出店者氏名、出店場所等の記録はなされなかった。このような事由から実行委員会は、店舗責任者氏名、出店場所等、詳細情報を把握できなかった。

医療機関受診者33名中22名(67%)からEHEC O157:H7(VT1&2)が検出(分離)された。分離22株について、パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)を実施した結果、12株(55%)がf171(感染研Type No.)、8株(36%)がf173に分類された。図1は分離22株から12株を無作為に抽出してPFGEを実施した結果であるが、いずれのバンドも高い相同性を呈し、1〜2カ所異なるパターンを認めるものの、同一起源であると推定された。

当該事件は、多数の臨時出店者があったにもかかわらずその記録がなく食品残品もない、さらに喫食者が不特定多数等の事由から、疫学調査が非常に困難であった。しかし、祭りで販売された食品が共通食品であったこと、患者分離株の相同性が確認されたことから、祭りで販売された食品を原因食品、EHEC O157を病因物質とする食中毒事件と断定した。調査段階で原因と推定される食品が浮上したが、同様の食品を複数の店舗が販売し、発症者の購入店舗が不明のため、原因施設と原因食品の特定には至らなかった。

祭り等(催事)臨時出店における衛生管理は、固定店舗と同様の衛生確保ができないことから、提供食品を限定し、品目も1〜2品にしなければならない。また、主催者は、店舗責任者、食品取扱者の健康状態を把握することが重要で、必要に応じて検便等健康診断書の事前提出を義務付けるべきである。今回の事例は、主催者、出店者の危機管理意識の希薄さが遠因になったと思慮される。

栃木県保健環境センター 内藤秀樹 舩渡川圭次
栃木県県北健康福祉センター
大内忠信(現生活衛生課) 石田睦美(現今市健康福祉センター) 永井友香里 齋藤けさよ 北林 卓(現県東健康福祉センター)
栃木県保健福祉部生活衛生課 馬淵佐知子

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