アジア条虫症の1例
(Vol. 32 p. 108: 2011年4月号)

症例:患者は埼玉県狭山市在住の31歳男性。生来健康であったが、2010年8月中旬に便の中に白色で長さ約1cm、きしめん様の動くものを発見し、近医を受診した。寄生虫疾患を疑い、精査目的で獨協医科大学越谷病院消化器内科への紹介となった。自覚、他覚症状はなく血液生化学検査においても異常所見はなかった。自然排泄された虫体片節の形態からTaenia 属条虫であることは確認できたが、正確な種鑑別のために国立感染症研究所寄生動物部に虫体の遺伝子同定を依頼したところ、アジア条虫(Taenia asiatica )であることが判明した。患者の生活環境として実家が焼肉店を経営しており、そこで頻繁に摂食していた豚レバー刺しが感染源と考えられた。

治療に当たっては、駆虫前日は低残渣食とし、入院時クエン酸マグネシウム1包服用、寝前にピコスルファートナトリウム4錠内服、翌日、排便後、プラジカンテル20mg/kg 1回服用、2時間後に硫酸マグネシウム30gを服用したのち、虫体が排出された。駆虫された虫体は破壊されており、頭節を確認することはできなかったが、その後、片節の排出は見られていない。

アジア条虫は豚の肝臓に寄生する幼虫をヒトが経口摂取することによって感染する寄生虫で、中国や東南アジア諸国で見られ、日本には分布しないと考えられていた。今回の患者は海外渡航歴が無いことと、国産豚のレバー刺しの摂取歴から国内において感染した事例と考えられ、わが国でもアジア条虫の生活環が定着、維持されていることが示唆された。アジア条虫感染予防として豚肝臓の生食を避けることが最も効果的な対策として注意喚起しておく。

この報告に当たりPCR検査や多くのご助言をいただきました国立感染症研究所寄生動物部・山崎 浩先生に深謝いたします。

獨協医科大学越谷病院臨床検査部 春木宏介
獨協医科大学越谷病院消化器内科 玉野正也
石心会狭山病院内科 三好洋二
目黒寄生虫館 荒木 潤

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