ペラミビル治療患者からのH275Y耐性ウイルスAH1pdm検出事例報告
(Vol. 32 p. 76-78: 2011年3月号)

2009年4月中旬からメキシコ、米国で出現したPandemic(H1N1)2009(A/H1N1pdm)ウイルスはその後世界中に広がった。世界各国で分離されているA/H1N1pdmウイルスのほとんどはノイラミニダーゼ(NA)阻害剤、オセルタミビル(商品名タミフル)およびザナミビル(商品名リレンザ)に対して感受性であるが、散発的にNAに特徴的なアミノ酸変異(H275Y)をもつオセルタミビル耐性株が検出されている。国立感染症研究所(感染研)と全国地方衛生研究所はA/H1N1pdmウイルスの出現を受けて、2009年9月からNA阻害剤(オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル;商品名ラピアクタ、ラニナミビル;商品名イナビル)に対する耐性株サーベイランスを実施してきた。2011年1月に抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスにおいて初めてペラミビル治療患者検体からのウイルス分離が4例報告された。そのうちの1株がH275Y耐性マーカーをもち、オセルタミビルおよびペラミビル耐性ウイルスであることが確認されたので報告する。

患者はインフルエンザワクチン未接種の幼稚園児(5歳)で、39〜40℃の高熱が続き、休日急患、内科、耳鼻科などを受診したが、迅速診断キットの結果はいずれもインフルエンザA、B型陰性で、解熱剤や抗菌薬等が処方され、タミフルは処方されなかった。1月13日に発熱と肺炎で入院し、入院時の迅速診断キットの結果はマイコプラズマ陽性、インフルエンザA、B型陰性であったため、1月13日からマクロライド系抗菌薬が投与された。投与3日目に呼吸状態が悪化し、再度迅速診断キットで検査したところ、インフルエンザA型陽性となったことから、1月15日にラピアクタを単回投与された。その後、患者はステロイド治療等で改善し、1月24日に退院した。家族内感染や幼稚園での流行はなく、散発例であった。

入院サーベイランスの検体として1月19日に採取された患者の咽頭ぬぐい液は、横浜市衛生研究所において翌20日にリアルタイムPCR検査およびウイルス分離が行われた。検体のリアルタイムPCR検査の結果からAH1pdmと判定され、MDCK細胞を用いてウイルス分離を行ったところ、A型ウイルスが分離され、A/Yokohama(横浜)/29/2011株と命名した。この分離株について、感染研から配布された2010/11シーズンの抗原解析用抗血清キットを用いて亜型同定および抗原解析を行った結果、旧季節性AH1亜型の抗A/Brisbane/59/2007血清、AH3亜型の抗A/Victoria/210/2009血清、B型Victoria系統の抗B/Brisbane/60/2008血清およびB型山形系統の抗B/Bangladesh/3333/2007血清に対する赤血球凝集抑制(HI)価はいずれも<10であった。一方、AH1pdm亜型の抗A/California/7/2009血清(ホモ価1,280)に対してはHI価1,280を示し、HI試験からもAH1pdmウイルスであることが確認された。

さらに、2010/11シーズンから抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスに新たに導入されたTaqMan RT-PCR法により、オセルタミビル耐性株に特徴的なH275Y耐性マーカー検査を実施したところ、A/Yokohama(横浜)/29/2011株は275H/Yの混合ウイルスと判定された。そこで、感染研において引き続きA/Yokohama(横浜)/29/2011株の薬剤感受性試験を実施した結果、オセルタミビルに対するIC50値が感受性参照株より約260倍上昇し、ペラミビルに対しては約60倍上昇しており、両薬剤に対する感受性が低下していた(表1)。一方、ザナミビルおよびラニナミビルに対するIC50値は感受性参照株と大差なく感受性を保持していた。世界的なNA阻害剤耐性株サーベイランスネットワーク(The Global Neuraminidase Inhibitor Susceptibility Network; NISN)は、NA阻害剤耐性ウイルスについて、臨床所見にかかわらず、NA遺伝子に特徴的な変異をもち、IC50値の著しい上昇を示すウイルスと定義しており、この基準が世界的な共通認識となっている。したがって、A/Yokohama(横浜)/29/2011株はオセルタミビルおよびペラミビル交叉耐性ウイルスであることが確認された。

抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランスでは、2009年9月〜2011年1月末までに8,364株の解析を行い、現時点で86株のH275Y耐性株を検出している。耐性株86株が検出された事例の薬剤投与歴の内訳は、オセルタミビル治療投与57例(66%)、オセルタミビル予防投与12例(14%)、薬剤未投与16例(19%)であり、今回初めてペラミビル治療投与1例(1%)からH275Y耐性株が検出された。ペラミビルのNA阻害機構およびそれに関わる分子構造は、基本的にはオセルタミビルと同様であり、in vitro耐性ウイルス分離試験において、オセルタミビルとの交叉耐性を示す耐性株の出現が報告されている1,2)。感染研がこれまで実施してきた抗インフルエンザ薬感受性試験では、オセルタミビル投与患者から分離されたH275Y耐性株はすべてオセルタミビルおよびペラミビルに対して交叉耐性を示すことが確認されていた。今回ペラミビル投与患者から分離されたH275Y耐性株も同様に、オセルタミビルおよびペラミビルに対して交叉耐性を示すことが確認された。

H275Y耐性マーカーをもつオセルタミビルおよびペラミビル耐性株は、薬剤感受性試験において両薬剤に対しIC50値の上昇を示す。このin vitroにおけるIC50値の上昇と臨床所見との相関性について、必ずしも見解が一致しない症例も報告されている。例えばわが国では、オセルタミビル耐性株に対して、15歳以下の小児ではオセルタミビル投与の臨床効果が低下し、成人では臨床効果の低下がそれほど顕著ではないという報告がある3,4,5)。少なくとも、すべてのH275Y耐性株は、ザナミビルおよびラニナミビルに対して感受性を保持していることから、これらの薬剤による治療は有効であると考えられる。

2010年にラピアクタおよびイナビルの国内販売が開始され、インフルエンザ患者にとって治療における薬剤の選択肢の幅が広がった。上記4種の抗インフルエンザ薬はそれぞれ投与経路、投与回数等に特徴をもっている。薬剤耐性を念頭におきながら、それぞれの症例に適した薬剤を選択し、適切に投与することが重要である。

参考文献
1)Mariana Baz, et al ., Antiviral Res 74: 159-162, 2007
2)Ellen Z Baum, et al ., Antiviral Res 59: 13-22,2003
3)Naoki Kawai, et al ., J Infect 59: 207-212, 2009
4)Naoki Kawai, et al ., Clin Infect Dis 49: 1828-1835, 2009
5)Reiko Saito, et al ., Pediatr Infect Dis J 29, 2010

国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第一室
高下恵美 江島美穂 藤崎誠一郎 金 南希 岸田典子 徐 紅 菅原裕美 伊東玲子 土井輝子 田代眞人 小田切孝人
横浜市衛生研究所
川上千春 百木智子 七種美和子 宇宿秀三 野口有三 池淵 守 田代好子 上原早苗 高野つる代 蔵田英志
横浜市健康福祉局健康安全課
岩田眞美 椎葉桂子 修理 淳
横浜市保健所
豊澤隆弘

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