2005〜2009年の5年間におけるA群ロタウイルス検出状況―愛知県
(Vol. 32 p. 72-73: 2011年3月号)

ロタウイルスは乳幼児のウイルス性胃腸炎の主要な原因ウイルスの一つである。わが国ではロタウイルス胃腸炎による死亡は稀であるが、世界ではアフリカやアジアなどの発展途上国を中心に、ロタウイルス胃腸炎による5歳以下の乳幼児の年間死亡者数は推定約50万人にのぼる1) 。これらの発展途上国ではロタウイルスによる乳幼児死亡の予防を目的として、また、先進国でもロタウイルス胃腸炎の重症化による入院削減を目的に、世界の100カ国以上でロタウイルスワクチン投与が実施されている2) 。わが国でもロタウイルスワクチンの承認申請がなされたことから、ワクチン導入前後のロタウイルス感染症の流行像変化やワクチン効果の検証が今後の重要な検討課題になると推察される。そこで、今回は2005〜2009年の5年間の愛知県におけるA群ロタウイルス(ARV)の検出状況と構造タンパクVP7のG(glycoprotein)血清型の年次推移について報告する。

方 法
2005〜2009年の5年間に愛知県の感染症発生動向調査事業で病原体定点に指定された医療機関で採取された感染性胃腸炎(乳児嘔吐下痢症を含む)患者2,046名の糞便を検査材料とした。10%糞便乳剤からHigh Pure Viral RNA Kit(Roche)でRNAを抽出後、ウイルス性下痢症検査マニュアル第3版に従い、RT-PCR法でARV検出検査およびG血清型別を実施した3) 。

結 果
5年間の総計2,046検体のうち、194検体(9.5%)がARV陽性であった。年別の陽性率は2005年が17.1%と最も高く、最低は2008年の6.5%であったが、年ごとに陽性率の減少傾向が認められた。また、血清型別では、G1が最も高頻度に検出され、以下、G3、G9、G2、G8の順となり、G4は検出されなかった(表1)。ARVは11月〜翌年の6月にかけて検出されたが、2〜4月で全体の約70%(136検体)が検出され、ノロウイルス流行後の時期に高頻度に検出された(data not shown)。図1にG血清型の年別検出割合を示した。G1とG3は5年間にわたり毎年検出され、2005年、2006年と2009年の3年間はG1が優勢であった。一方、2007年と2008年の2年間は、G9が優勢であり、主流行型の変動が認められた。図2に年齢別・G血清型別のARV検出状況を示した。年齢を確認できたARV陽性患者 188名の年齢分布は、1歳未満が47名(25.0%)、1歳が77名(41.0%)、2歳が26名(14.9%)、3歳が10名(5.3%)、4歳が9名(4.8%)、5歳以上が19名(10.1%)で、4歳未満が全体の85.1%を占めていた。患者年齢と検出G血清型の間に顕著な相関関係は見出されなかった。

まとめ
2005〜2009年の5年間の愛知県におけるARVのG血清型の年次推移を調査した結果、主たるG遺伝子型の年次変動を認めた。今後、ARVワクチンの導入に伴い、ARVの流行像変化も予想されるが、ARVスクリーニングキットの普及に伴い、当所に搬入されるARV陽性検体数は減少傾向にある。今後とも関係医療機関および保健所等と連携を保って、ARVワクチン導入前病原体サーベイランスの強化に取り組みたい。

謝辞:検体採取を担当された病原体定点医療機関の諸先生方および保健所担当者にお礼申し上げます。

 参考文献
1) CDC, MMWR 57: 1255-1257, 2008
2)中込 治、中込とよ子、モダンメディア 54: 317-330, 2008
3)国立感染症研究所,ウイルス性下痢症検査マニュアル(第3版), 25-27, 2003

愛知県衛生研究所
小林慎一 藤原範子 安井善宏 伊藤 雅 山下照夫 藤浦 明 皆川洋子

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