岡山県におけるA群ロタウイルス検出状況と血清型分布の最近の動向
(Vol. 32 p. 71-72: 2011年3月号)

我々は、岡山県内におけるA群ロタウイルス(ARV)流行状況を把握するため、(独)国立病院機構岡山医療センター小児科の協力を得て、胃腸炎患者におけるARV検出状況および検出ウイルスの血清型(G型)分布状況について継続的な調査を実施している。2000〜2004年の4シーズンの結果については既に本誌で報告したので1) 、今回はその後の状況について述べる。

2004年9月〜2010年8月までの6シーズン(前年9月〜翌年8月を1シーズンとする)にウイルス性胃腸炎を疑う患者から、できるだけバイアスのかからないかたちで採取された1,975検体の糞便(2004/05シーズン:251件、2005/06シーズン:342件、2006/07シーズン:316件、2007/08シーズン:341件、2008/09シーズン:368件、2009/10シーズン:357件)を検査対象とした。検体について市販のELISA法またはイムノクロマト法キットによりARV検査を行うとともに、陽性例についてGouveaらの逆転写PCR法2) もしくはシークエンスによりG型を同定した。

検査の結果、485検体(24.6%)からARVが検出された。シーズン別の検出率は2004/05シーズンが24.7%、2005/06シーズンが27.2%、2006/07シーズンが28.2%、2007/08シーズンが22.0%、2008/09シーズンが20.4%、2009/10シーズンが25.5%であり、シーズンにより検出率に大きな変動はみられなかった。に検査数およびARV検出率の経時的推移を示す。ARVはシーズンを問わず年明けより検出され始め、3〜4月頃に検出率のピークが認められた。なお、ピーク時の値についてはシーズンにより多少のばらつきがあるものの、37〜67.9%といずれも高率であった()。

次に、ARV陽性485検体のG型別を行った結果、6シーズンを通してのG型別相対頻度はG3型(38.8%)、G1型(31.3%)、G9型(21.9%)、G2型(7%)、G4型( 0.4%)の順であり、また混合感染例が3例(G1&G2、G1&G3およびG1&G9が各1件)認められた()。シーズン別の優占G型は、2004/05、2008/09および2009/10シーズンがG3型、2005/06および2007/08シーズンがG9型、および2006/07シーズンがG1型であり、一般にG1型が優占であるというこれまでの状況とは異なっていた()。なお、G1型およびG3型については未検出シーズンはみられなかったが、G9型についてはその流行が2005/06および2007/08シーズンに集中していた。また、G2型は6シーズン全体では低率であったものの、2006/07シーズンにはARV全体の32.6%とG1型に次ぐ値であり、シーズンによっては広範な流行を起こすことがわかった。

以上のように、最近6シーズンの岡山県におけるARV流行は、ウイルス検出率に大きな変動は認められなかったが、シーズンにより優占G型がめまぐるしく変化していることが明らかになった。特に近年ではG3型およびG9型の増加傾向が顕著であり、これらのウイルスの流行動向には十分な注意が必要である。

わが国における最近数年間のARV流行状況に関する報告はあまり多くないものの、牛島らのグループが国内5地域(札幌、東京、大阪、舞鶴、佐賀)において、継続的なサーベイランスを実施している3-5) 。それによると、ここ数年間のARV検出率は12〜19%で推移し、シーズンによる大きな変動はみられないなど、本県の状況とほぼ同様であった。また2004年以降のG型別検出状況については、全体としてG1型が主流ではあるものの、G3型およびG9型がそれに次ぐ割合を占めていた。

現在、ARVワクチンの導入が世界的に進められており、わが国でもRotarix® (GSK社)およびRotaTeq® (MSD社)の承認申請がなされている。これらのワクチンの有効性および使用に伴うG型別流行状況の変化などを評価するうえで、ワクチン導入前のARV流行状況を把握しておくことは極めて重要であると思われる。全国規模のARVサーベイランスシステムの早急な構築が望まれる。

 参考文献
1)葛谷光隆, 他, IASR 26: 4-6, 2005
2) Gouvea V, et al ., J Clin Microbiol 28: 276-282, 1990
3) Phan TG, et al ., J Virol 81: 4645-4653, 2007
4) Dey SK, et al ., Infect Genet Evol 9: 955-961, 2009
5) Chan-it W, et al ., Infect Genet Evol, in press

岡山県環境保健センター
葛谷光隆 濱野雅子 木田浩司 藤井理津志 岸本壽男
独立行政法人国立病院機構岡山医療センター
金谷誠久 西村恵子

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