小学校におけるノロウイルスGII/3の集団感染事例―千葉市
(Vol. 32 p. 19: 2011年1月号)

2010年11月に千葉市内の小学校(全校児童220名)において、ノロウイルス(NoV)GIIを原因とする感染性胃腸炎の集団事例が発生したので、その概要を報告する。

2010年11月8日、教育委員会から「市内のA小学校において下痢、嘔吐等の症状を呈して欠席した児童が多数いる」旨の連絡が千葉市保健所にあった。保健所の調査の結果、発症者は4年生と5年生にのみ認められ、その多くが4年生に集中し、ほとんどが11月5日に発症していた()。

4年生では11月2日に4年生男子トイレの便器に汚物(下痢便)が付着していたことが判明しており、汚物は4年2組の担任が水で流したが消毒等の処理を実施していなかった。汚物を処理した担任は11月6日に発症していた。

一方、5年生では11月5日に5年1組の教室内で児童1名が嘔吐し、その吐物が付着した座布団を5年1組の担任が消毒等を実施せずに処理していたことが確認されており、この担任は11月6日に発症していた。11月1日以降に4年生と5年生の児童同士が交流する共通行事はなく、また、給食の調理従事者を対象に11月2日から2週間遡って健康調査を実施したところ、体調不良を呈する職員はいなかった。

なお、本事例の症例定義を「11月2日〜11月7日の期間に、4年生、5年生、およびその関係者で下痢または嘔吐の症状を呈した者」とした場合、患者数は4年生2クラス48名中42名、5年生1クラス36名中6名、担任(職員)3名の計51名であった。

千葉市環境保健研究所において、発症者51名中4名(4年1組の児童2名、4年2組担任、5年1組担任)についてリアルタイムPCR法によるNoV遺伝子の検出を行った結果、4名全員からNoV GIIが検出され、糞便1g当たりのNoV遺伝子コピー数は106〜1010コピーであった。

COG2F/G2-SKRプライマーによるPCR産物の塩基配列(Capsid領域253bp)について系統樹解析を実施したところ、NoV遺伝子の配列は一致し、遺伝子型はGII/3であることが明らかとなった。DDBJにおけるBlast検索では、Norovirus Hu/GII/Beijing/215/2009/CHN(EU703734)と最も高い相同性を示した。

以上の結果から、本事例はNoV GII/3を原因とする感染性胃腸炎の人→人感染による集団発生であり、4年生では11月2日の男子トイレ汚物から感染が拡大し、5年生では11月5日の教室内における吐物から感染が拡大したことが示唆された。

2010年10月以降、市内の小学校や保育所等におけるNoV GII/3の集団感染事例は12件発生しており、市内の感染性胃腸炎患者から検出されるNoVもすべてGII/3であることから、今後のNoVの遺伝子型の動向(流行する遺伝子型の変化)が注目される。

千葉市環境保健研究所医科学課
横井 一 小林圭子 田中俊光 岩撫晴子 野口喜信 三井良雄 岡本 明
千葉市保健所感染症対策課
小川さやか 小山大雅 長嶋真美 大野喜昭 大塚正毅

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