JANISにおけるサーベイランスデータの精度管理について
(Vol. 32 p. 16-17: 2011年1月号)

サーベイランスデータの精度管理はサーベイランスにとって要であり、解析結果が実態を反映しているか否かは、提出されたデータの正確性に依存する。データの精度管理には多大な労力と時間を必要とするが、還元情報や公開情報の発信には迅速性も求められるため、厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)では膨大なデータの中で特に院内感染対策上重要な薬剤耐性菌や感染症に関するデータの確認を優先している。

確認作業の対象となる疑義データはA、B、Cの3種類にわけることができる。対象Aは参加医療機関全体と比較して菌の分離率や感染症の罹患率・発生率が著しく高い場合や、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)など、わが国でまだ報告されていない薬剤耐性菌の報告を含めている。逆に著しく低い場合を対象Bとし、本来提出するべきデータや感染症の報告がされていない可能性がある場合とした。そして解析前にサーベイランス基準に準拠していないことが疑われたデータは対象Cと位置づけ、具体的には検査部門における検体提出なしや、集中治療室(ICU)部門においてICU入室患者や解析対象患者の集計間違いの可能性がある場合とした。

医療機関には、これら対象A〜Cの疑義データに関しメールや電話で問い合わせを行い、誤ったデータであった場合にはデータの訂正を依頼している。データが訂正されなかった場合は該当医療機関のデータは信頼性が低いと判断し、その医療機関の全データを全体集計から除外することにしている。また、問い合わせに回答がない医療機関に関しても、データが未訂正の場合に準じ、全体集計から除外している。

2009年の精度管理結果を例として紹介する。問い合わせをした疑義データの中で、回答が得られたデータをにまとめた。検査部門では、問い合わせ対象となった疑義データは113医療機関から報告された159データが該当し、うち147データ(92%)で回答が得られた。そのうち51(35%)が誤報告であった。対象AにはVRSA・バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)報告はすべて、主要菌11種とVRSA・VRE以外の特定の耐性菌9種は、年間分離率が基準値以上の場合を含めた。それらの誤報告の内訳としては薬剤感受性検査の誤りやシステム設定・データ入力の誤りなどが多かった。なお、VRSAは外来からの報告を合わせ37の報告があったが、すべて誤りであった。対象BとCとして問い合わせたデータはいずれも医療機関のデータをJANIS提出用データフォーマットに変換する際の誤りによる誤報告であった。

全入院患者部門では、合計で33医療機関から報告された36データが該当し、すべてで回答が得られた。対象Aには、サーベイランス対象である5種類の耐性菌のうちメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)・多剤耐性緑膿菌(MDRP)・ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)による感染症の年間罹患率が著しく高い場合と、VRSA・VRE感染症の全報告を対象とした。誤報告であった13データの原因としては、データの入力間違いが多かった。VRSAは3件報告があり、すべて誤りであった。

手術部位感染(SSI)部門では、対象Bに該当する項目で、全体集計で一定のSSI発生率がある手術に関し、一定数以上の手術を施行しているにもかかわらず、SSIの発生なしというデータに関してのみ問い合わせを行った。19医療機関から報告された25データが該当し、21データ(84%)で回答が得られた。誤報告であった8データは感染症患者の集計もれや入力間違いであった。ICU部門は合計で30医療機関から報告された34データが該当し、31データ(88%)で回答がえられた。誤報告は同じ医療機関が繰り返すことが多かった。

現在、問い合わせは年1回、年報集計前の2〜3カ月をかけて行っているが、1年近く前のデータについては医療機関側も妥当性の確認が困難になることがあり、より迅速な問い合わせが必要と考えられる。検査部門や全入院患者部門では、VRSAなど特定の耐性を示す菌の中で特に重要と考えられる菌に関しては、報告時に迅速な問い合わせを行っていくためのシステムを構築中であり、2011年には稼働が開始する予定である。さらに検査部門では、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌として報告されているにもかかわらず、イミペネムの薬剤感受性が“耐性(R)”である報告の妥当性など、より広い意味での細菌検査の精度管理も課題として挙げられる。またSSI部門でSSI発生率が著しく高い医療機関についての確認をどう行っていくかの検討や、ICU部門ですべての感染症発症が無しとしている医療機関の報告の妥当性をどうしていくかの検討も必要である。精度管理で基準に該当したデータや誤りであると判明したデータの数は、システムの改善や参加医療機関の理解が増したことにより徐々に変化してきているため、今後もより効率的かつ効果的な精度管理の方法を探っていく必要がある。

国立感染症研究所細菌第二部(JANIS事務局)
山岸拓也 山根一和 鈴木里和 筒井敦子 荒川宜親

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